すーきーなんだー♪ つーよーいんだー♪

今日は「超人戦隊バラタック」というアニメの放送開始日だそうで。
タカラが「鋼鉄ジーグ」で始めた「マグネモ」シリーズの第四弾(鋼鉄ジーグ、マグネロボ ガ・キーン、ゴワッパー5ゴーダムに次ぐ)、ところがアニメ的には「マグネロボシリーズ」であり、それで計算すると第三弾という不思議な位置づけのシリーズでもあります(これはゴーダムの制作会社がタツノコ、それ以外は東映という関係の都合もあるでしょうが)。
現在だと東映公式で第一話が無料で見られるようですね。

超人戦隊バラタック第一話(東映公式)に飛ぶ

一説にはバラタック自体、玩具主導で作られた、「ゴワッパー5ゴーダム」の変種のリメイクじゃないのという話もあるそうですが(確かに人型であることにこだわらない変形合体や五人のメンバーで動かす所など、共通点があるといえばありますが……)。
沖縄では確か1年遅れぐらいで放送が開始され、キャラクター原案の池原しげと(当時表記)さんの絵柄を、名アニメーター小松原一夫さんがクリンナップしたキャラクターデザインと色使い、バラタックの無骨な格好良さ、何よりもあのオープニングの前奏で心を掴まれました。敵は一人を除いておふざけキャラなのにやることが極悪で、バラタック側が真面目に戦うというのも奇妙なコントラストでありました。
で、ワクワクしながら最終回を待ち望んでいたんですが……折悪しく台風シーズンと重なり、当時はアナログアンテナ、デジタルと違ってちょっと向きが違ったぐらいじゃ見られなくなる事はないんですが、画面が砂嵐の中、声だけが聞こえるという状態に……それでも音だけでも! と思ってテレビにかじりつく私に親の「目が悪くなるからもう消しなさい」という非情のひと声が……。

やむなく、本屋で原作の池原しげとさんが描いたコミカライズ版を読み、最終回を脳内保管しておりました……今からは信じられないでしょうが、アニメ番組なんて再放送以外で見るには、よほどのお金持ちの家でビデオデッキがなければ出来なかったんですよ。

ちなみに、同じ様に台風によってアンテナがそっぽを向いて見られなくなった最終回と言えば「バビル二世」と「キャプテン・フューチャー」があります。

特に「キャプテン・フューチャー」はナイター時期に父親が野球を見てしまうため最終回までの数話を見ることが出来ず、悔しい思いをした後だったんで余計にガッカリしましたっけ。

また当時すでに「玩具の強制卒業」をさせられていたので、何一つ手に入れることが出来ず、今立体物が出る度に買い直すという有様ではございます……


ロボテックが映画になるそうで

ご無沙汰しております。
コロンビアがロボテック(日本のアニメの超時空要塞マクロス、機甲創世記モスピーダ、超時空士団サザンクロスを一本の作品としてまとめた輸出作品)を映画に染ますよと正式発表があったようで。
個人的には「なんどめだ?」という話ではあるんですが映画界においてはクランクインするまでは確定ではないということなんで、あれこれ夢想する楽しみが来たと思っておいたほうが良いようで。
「ロボテック」となった三つの作品のうち、今や「マクロス」だけが長大なシリーズとして残りましたが、実はマクロスとサザンクロスは放送当時同じ「超時空」シリーズと呼ばれるものでした。
マクロスとサザンクロスの間にあったのが「超時空世紀オーガス」で、マクロスとオーガスはパラレルワールドの関係にある、(マクロスの前史である統合戦争の話)とうっすらあちこちに提示されている部分がある作品でした……これは結局のちに否定されたようですが。
そのオーガスが今から34年前の今日、放送が始まりました。

とはいえ、放送当時は原作も同じスタジオぬえ、キャラクターデザインは共に美樹本晴彦さんで、メカデザインも宮武一貴さんが担当(マクロスは河森さんがメカデザインでは有名になっていますが、実は宮武さんたちスタジオぬえが縁の下の力持ち的に協力しているそうで)なので、完全に見てる側は「マクロスと同じ世界」だという認識でした。
マクロスではメロドラマにちかい三角関係を描いたので今度はぐっと大人っぽいヒーローにしようということで、二枚目で女たらしの主人公、桂木圭になったとも言われまだ中学生だった私は、一条輝の優柔不断さでドラマが結構グダグダに終わったマクロスと違って、今回はシャープな作品になるんだろうなと期待しつつ、放送日を待ったんですが、弱ったことに沖縄には旧暦で盆を迎える風習と、巨大な亀甲墓を持つ本家の墓掃除に付き合わされることがセットの「義務」となっているところがありまして、その「旧盆前の墓掃除」が丁度、オーガスの第一話放送日と重なっておりました。
ですが中学も二年生になっていた私は朝早くから作業を続け、昼過ぎ(超時空シリーズの放送時間は昼の一時でした)になってから「ちょっとそこまで」と適当に作業から抜けだし、徒歩で自宅に戻って一人、クーラーもない我が家で第一話を固唾を呑んで見守ってました。

マクロスと違い、軽快なケーシー・ランキンの歌声に合わせて、異世界が舞台であることを強調する風景、あの当時最新鋭の絵と技術で動くOPはキラキラしてました。
で、いきなり始まったのはある女性のベッドで裸で抱き合う主人公……おお!と驚きつつ、同時に「凄く恥ずかしいものを見ている」という中学生の純情でどう画面をみていればいいものか戸惑っていたのをはっきりと覚えています。
個人的にはパラレルワールドがごっちゃに「接続」されたあちこちをグルグル回る前半のほうが好きでしたが、最後に原因を作った自分自身と対決するという展開は当時としても充分にSFで諸行無常なラストだったと思います。
今でも女性優位の種族エマーンが操る腕だけのマシンは好きですが、マクロスと違いこちらはプラモの売れ行きがよろしくなく、プラモデルを出していた今井科学が廃業した今となっては入手も困難というのが寂しい限りですね。

気がつけば楽ノベ文庫半額セール中

ご無沙汰してます、神野です。
今現在、次のお仕事でドタバタしておりますが、その間にマイナビ楽ノベ文庫の私の作品「南国戦隊シュレイオー」シリーズのうち、100円で売られている1巻を除いた全三冊と、「星魔の砦」を加えた四冊が半額セール中だそうです。

今なら全巻購入しても千円しないので、この期にお持ちでないかたはどうぞ。




EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その8(全8回)

☆第8回

学校が再開して、登校初日に、美月は偶然、亜世砂と校門で出会った。
いつものように姉の世衣と、弟分の真之斗と一緒だが、世衣が真之斗と手を繋いでいた。
明らかに三人の雰囲気が違う、と美月は首を傾げ、それ以上の大きな違和感に気付いた。
世衣の右手首の補助装具は変わらないが、真之斗の腕、亜世砂の足首を覆っていた装具がない。
「どうしたんだ。おい?」
美月がそのことを指摘すると、亜世砂は勿論、世衣までが微笑んだ。
「色々あったんですよ」
と世衣が答え、その声が数日前までのがらがら声ではなく、事故前の美声を取りもどしていることに美月は驚いた。
「美月、あとでいいもん、見せてやるよ」
と亜世砂は微笑んだ。
そして数時間後。
クラス合同で受ける体育の授業で、それまで体育着をつけたまま見学だった亜世砂が「今日は調子がいいんで参加します」と言い出した。
体育教師は、陸上部の副顧問で、一瞬痛々しい顔をしたが、「いいでしょう」と頷いた。
授業は100メートル走の測定。
やがて亜世砂の番が来た。
後ろに並ぶ美月にちょっとだけ振り向いて、亜世砂はにやっと笑った。
その笑顔が「まあ、見てろよ」という意味だと気付いて、美月は首を傾げつつ、スタートラインに移動していく亜世砂を見て驚いた。
足を引きずっていない。
それに身体の中心線が、昔のように真っ直ぐになっている。
実践型の空手をやっている美月には、数日前までの亜世砂とは別人の身体の動きになっていることが理解出来た。
スターター代わりの笛が鳴る。
だん、と亜世砂が踏み出す最初の音が、美月の耳に残っているうちに、その細い身体が50メートルのラインを超え、ゴールラインを踏んでいた。
どれくらいの早さかは分からないが、間違いなく、以前よりも早い、と美月は思った。
「え? え?」
亜世砂がゴールラインを踏んで数秒して、慌てて教師はストップウォッチのボタンを押した。
「12秒……いえ、今のナシ! 測定しなおします! 小日向さん!」
上ずった教師の声に、亜世砂はその場にしゃがみこんだ。
「すみません、先生、ちょっと気分が……」
亜世砂はそう言って片手を挙げる。
仕草はどう見ても嘘だった。
(この野郎)
にやっと美月は笑った。
「先生、俺、小日向さんを保健室に運びます!」
美月は手を挙げて大声で宣言し、亜世砂に向かって走って行くと、芝居に合わせて肩を貸してやった。
「見た?」
「ああ、見た、今の下手すりゃ10秒切ってるだろ」
「かもね」
「何があったんだ?」
「奇跡」
ふざけているような答えだが、それだけで、美月には充分だった。
傲慢かもしれないが、こいつらは勝手な期待を背負わされ、屈辱を受け、特別な苦労をしたのだ、それぐらいあっていい、と思っていた。
それに亜世砂は質問に隠し事で返せるタイプではない。
彼女が「奇跡」と呼ぶなら本当にそういうことが起こったのだろう。
「そっか、よかった」
「でも、もうオレ、人のためには走らないよ」
美月は亜世砂の横顔を見た。
「今まで、人に褒められるのが嬉しくって走ってたけど、今日、気付いた、オレ最初は楽しいから走ってたんだ、ただ、楽しいから」
意地や、怒りではなく、晴れ晴れとした表情だった。
「それなのに……いつの間にか、人のために走ってた。バカみたいだ。今日からもう、元に戻るよ、そういう意味で、さ」
「そうか、なら止めねえ。お前は、お前のために走れ」
「うん、そうする」
にかっ、と亜世砂が笑い、片手でガッツポーズをしてみせた。
「勝ったな」
美月はいい、「ああ」と亜世砂は頷いた。
ふたりはささやかな勝利を胸に、保健室へ急ぐ。
校舎に入ると、微かに世衣の歌声が流れてきた。
少し遅れてどよめきの声も。
<奇跡>は亜世砂にだけ、ではなかったらしい。
「そういうことか」
「ああ」
「いい姉妹だよな、羨ましい」
美月は心の底からそう言い、笑った。
(終)

 

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その7(全8回)


☆第7回

「校舎が崩れてる!」
叫んだのはたしか、バスケ部の誰かだったと思う。
「白いコートの少年」が学校に現れ、校舎が半壊する騒ぎが起こったことを美月が知ったのはその時だった。
後にマスコミ報道によると、相手はテロリストで、手当たり次第に爆弾を投げて吹き飛ばした……という話だったが、美月はその時、体育館の中に併設された武道場で稽古をしていて、状況を見ている。
爆発音は無かった。コンクリートが派手に崩れる音もなかった。
大量の土砂が水で一気に流れるような音と地響きだけだ。
校舎はもうもうとした土煙に包まれた。
「近づくな、ここにいろ!」
部員たちに叫んで、美月は校舎を見ながら両手を広げて、興味本位で出て行こうとする部員たちを、他の部の部長や教師たち一緒に押しとどめた。
直感が「あそこに近づいてはいけない」と叫んでいた。
何が起こったのか、という好奇心よりも直感の告げる恐怖が勝る。
その時、もうもうと立ちこめる校舎の煙の中から、人影のような物が校外目がけて跳ぶのを、美月は見たような気がした。
その日、学校近くの病院が同じテロリストに狙われ、建物が爆破されるという事件が起き、その犯人を追った警察の特殊部隊が「海ほたる」で大規模な戦闘を行い、犯人を無事に鎮圧、逮捕したという報道がなされたが、犯人が未成年であるために、以後すべての情報が伏せられた。
学校は3日間休校になったが、それから急ピッチで破壊された箇所を入れ替え部品が入るように解体、運び出された。
理宇によると、美月たちの通う学校の校舎は、大地震による損壊の可能性も視野に入れた最新のユニット式で、金さえかければ、ブロック玩具のように破損箇所を入れ替えてあっという間に元に戻るらしい。
理宇の言葉通り、校舎の破損部位は新しい部品に入れ替えられ、失われた中の設備類を搬入し、元通りに授業は再開された。
魔法のような素早さだ。
改修された部分の床と天井の色が鮮やかでなければ誰も気付かない。
「……大したもんだなあ」
暇つぶしに現場まで来て、その様子を見てぽかんと呟く美月の隣で、それに付き合ってやって来た理宇は首を捻っていた。
「でも、どうしてこんなに早く予算が下りて工事できたんだろ?」
「テロだった、ってことを早く忘れたいんじゃねえの?」
「……そんなとこか、うん。美月にしてはいい考えだ」
「どういう意味だよ!」
その頃には屋上を跳んでいった影のことなど、美月の記憶からはぬぐい去られていた。

 

 

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その6(全8回)


☆第6回

2学期が始まって、亜世砂と世衣への風当たりを美月は目の当たりにした。

声と指先の動きを失った歌姫にして演奏家と、走れなくなったレコードブレイカー。

本人たちは犯罪を犯したわけでもなければ、人格が変わったわけでもない。
だが、周囲の目つきが明らかに変わった。
ふたりとも学校においては一種のスターであり、有名人だったものが、衝撃的な大事故の果てに、それを失ってしまったのだ。
注目を浴びていたふたりなだけに、羨むものも多く、無思慮な嫉妬の対象でもあったから、この思わぬ不幸は、その連中にとっては「見事な転落劇」だ。
陰口はあらゆる物陰で囁かれ、せせら笑う男女はあちこちに見受けられた。
特に亜世砂が籍を置いていた陸上部は実力主義の体育会系の悪い部分がモロに出た。
「天罰が下ったのよ」
一度、そう囁き合う女子部員の頬を、もう少しで美月はひっぱたきそうになって理宇に止められた。
「僕らがどんなに怒っても、ただの同情だ。彼女たちのためにはならない。君のためにも」
真っ直ぐな目でそう言われると、美月としては何も言えなくなる。
生徒会はさすがに世衣の冷静な性格と明晰な頭脳に頼るところだけあって、何も変わらなかった。
一番ひどい対応を向けたのは、教師と一般生徒の一部だった。
今まで世衣が行っていた朝礼での司会を「あの声を聞くのが怖い」「気持ち悪い」といってやめるように要請したり、声と演奏能力の消滅を理由に、世衣を生徒会長から解任しようとする動きまであった。
――――もっともそれは、さすがに生徒会の役員生徒たちの猛反発と、別の一般生徒の親から教育委員会の偉い人に通報があったらしく、なし崩しに消えてしまったのだが。
不思議なのは、そんな目に遭いながら亜世砂も世衣も、どこか楽しげな部分があったことだ。
やはり全校挙げての期待というのは重い物なのだろうか、と美月は思ったが、理宇は単純に「あのふたりには弟くんがいてくれるからね」という答えを返した。
「なんでここで真之斗君が出てくんだ?」
この話題になったのは、帰りの電車の中だった。
「……」
ガラガラに空いた座席の隣に座っていた理宇は、呆れたように美月を見て、
「気付かない?」
と尋ねた。
「小学校のころから、あの3人、ずっと本物の姉弟みたいだったろ?」
「ああ、幼なじみだもの」
「一つ質問。僕らも幼なじみだったよね?」
そこまで言われて、さすがに美月も気がついた。
「んな、まさか……」
「それにあのふたりを川に落ちる寸前の電車から救出したのは真之斗君でしょ。今までの弟分が、一気に異性へと認識が変わってもおかしくはないさ」
理宇は肩をすくめた。
「もう、ふたりとも真之斗君以外に優先させることがないんだ。それはそれで幸せだと思うよ?」
「そ、そういうものかな?」
美月はこういうことに関しては、今でも少々疎いことを自覚している……というよりも考えることが恥ずかしいので無意識に回避する癖がある。
「で、でもふたりでひとりを、か? それは……」
「修羅場になるのか、それともどっちかが素直に諦めるのか、それはあの3人が決めることだよ」
「でも真之斗君は……」
「僕は決めた。彼にも出来る」
短く言いきり、少年は参考書に目を落とした。
※第7回に続く


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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その5(全8回)


☆第5回

手術室から出てきた亜世砂が病室で意識を回復したとき、最初にそばにいたのは美月だった。
「よう、生きてるみたいだな」
つとめて軽く言ったつもりなのに、涙が溢れた。
亜世砂たち3人はそれから3か月近い入院生活となった。
その間に夏休みに入り、彼女たちはひと夏を殆ど病室で過ごした。
美月はほぼ毎日、学校帰りに病院に足を向け、行けないときはメッセージを送って親友の亜世砂の様子を見た。
亜世砂たちと真之斗の父親がそれぞれ帰国してからもそれは続いたが、その最中に腹の立つものを見た。
陸上部の顧問と、校長、そして学年主任の教師たちとその態度だ。
学校が終わり、美月が病院を連絡すると彼らはすっ飛んできた……この時点で美月にしてみれば「なんで検索しないんだ?」と思っている。
大事な生徒なら、警察の連絡アプリに登録して探せばいい。
腹立たしさが決定的なモノになったのは、彼ら、彼女らが医者にどやどやと話を聞きに行ったことだった。
事故発生から半日が経過し、状況は落ち着いてきたものの、まだ患者たちは痛みを訴え、治療は続いている。
それなのに教師たちは担当医に状況説明を求めた……もっと腹が立ったのは誰も霧山真之斗のことは口にしなかったことだ。
空手を始めてかれこれ10年以上の歳月と、これまでの理宇や亜世砂から教えられたことが美月の中になかったら、その時点で怒鳴り散らしていたかもしれない。
ぐっと堪えて美月は亜世砂に付き添っていた。
数日後、またやって来た彼らは今度は落胆した顔をして医者との面談室から出てきた。
そのあと後、教師たちは何とも言えないわざとらしい笑顔で見舞いに来てそそくさと帰っていった。
おざなりな挨拶、という言葉の典型例を美月は初めて人の口から聞いた。
「もう、お払い箱ってことさ」
教師たちが帰った後、亜世砂はぽつりと呟いた。
「オレも、姉貴も、もう昔通りじゃない。利用価値がなければオレたちはただの生徒だ」
ベッドに仰向けになったまま、亜世砂は苦笑を浮かべようとしていた。
リハビリがあまり上手くいってないのは美月の目にも明らかだ。
だから、美月は何も言わなかった……言えなかった。
「これから、どうすんだ?」
「わかんないなー」
脳天気に言おうとした亜世砂の声が僅かに涙で歪む。
「オレ、走ることしか考えてなかったしさ、足首やっちゃったってことは、美月みたいに空手をやるわけにもいかないし。空手も下半身大事だろ? 特に足首とかさ」
「……でもお前は、トップを走ってたんだ、何にでもなれるさ」
「でもオレ、頭悪いからさ……姉貴に頼んでもっと勉強出来るようにならなくちゃ」
その日、それ以上の会話はなく、暫くしてリハビリから真之斗と、それに付き添っていた世衣が帰ってきた。
これ以上は何も言えない。
そう判断した美月は真之斗と世衣に軽く挨拶をして、「じゃあな」と席を立った。
病室を出たとき、それまで辛うじて作っていた笑顔が崩れた。
悔しかった。
自分がただの高校生にすぎないのだと思い知った日だった。

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その4(全8回)


☆第4回

高校受験が終わったその夜。
美月は理宇に会うべく道を急いでいた。
近年では珍しい大雪が降る、と言われた夜が来る前に、理宇と会って話がしたかった。
そうでなければ合格発表まで不安で仕方がなかったから。
理宇にメッセンジャーで居場所は聞いていた。
いつもボンヤリしているようで妙に細かいところに気が回る上に冷静沈着な部分のある少年は、高校受験が終わったから、と半年間足を踏み入れていなかったマンガ専門の本屋にいる。
角を曲がり、美月自身つき合いもふくめ、何度か入ったことのあるビルの前まで来ると、理宇の姿が見えた。
「よ……」
よお、といつものように声をかけようとした美月は、何故かその言葉を言えなかった。
「理宇君、私は、あなたが好きです」
理宇の前には小柄な少女がいた。
中学の先輩、小柄で腰まである長い髪。頭が良くって今はここの地域では一番の進学校に通い、英語とドイツ語、二種類の中国語まで喋れるクァドリンガル。
優しい微笑みをいつも浮かべている少女は、中学校時代、亜世砂の姉の小日向世衣と並んでも、唯一色あせて見えない華やかな存在だった。
美月も彼女に何かと世話になった。
時には理宇でも手に余るような問題を彼女が解決、あるいは忠告してくれた。
その先輩が。

理宇を相手に告白をしてる。

頭の中が真っ白になり、気がついたら美月は身を翻してその場から立ち去ろうとした。
「おい、美月?」
最初の角を曲がろうとしたら、コート姿の亜世砂が立っていた。
このとき、亜世砂は本当に偶然、例の弟分の霧山真之斗の為にマンガを買いに来ていたのだという。
「どうしたんだよ?」
地獄に仏、という慣用句が美月には痛いほど理解出来た。
胸が苦しい、泣き出したい、どうすればいいのか分からない。
だから素直に亜世砂にすがりついて、今見たことを告げた。
「俺、どうすればいいのか…俺……俺……」
「逃げるな」
親友は、美月の言葉が終わると即断した。
「お前が逃げ出したのは、怖いからだ、泣いているのは失くしたくないからだ。オレも一緒に行く、理宇君にちゃんと「好きだ」って言え」
「でも……でも……」
「オレ、何年お前たち見てると思う?」
冗談を言ってる顔ではなかった。
「今、引き返さなかったら、美月は、ずっと後悔すると思う」
「なんで分かる」
「直感」
親友の言葉は単純明快だった。
その目が、美月に決意させた。
「分かった、戻る」
短く、断ち切るように答えて、美月は踵を返した。
息せき切ってビルの前に戻り、「先輩」が理宇に告白を終えて抱きつこうとする寸前、美月は人生で最初で最後の大声を出した。
「理宇、好きだ!」
「先輩」の動きが停まり、そして少年……理宇は振り返って微笑み、頷くと、先輩に頭を下げた。
そしてその夜、美月は初めて理宇とキスをした。
翌日、そのことを美月は、亜世砂にだけ報告し、亜世砂は誰にも漏らさなかった。
高校1年の秋口、偶然他のクラスメイトが、美月と理宇がデートしている現場に出くわすまで、ふたりの関係は校内の誰にも知られなかった。
知られた後も、亜世砂は一切その話題の輪に加わらず、ただひとこと美月に「有名人になるってのは辛いだろ?」と笑っただけだ。
それがまた美月には嬉しかった。

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その3(全8回)

☆第3回

救急病院に向かう途中、警察発表をチェックしていると、ICカードから判明した被害者の名前の中に、小日向姉妹が出ていた。
そして彼女たち姉妹の弟も同然の、霧山真之斗の名前も。
去年から、こういう大規模事故に対しては、すぐに家族、あるいは知人が連絡を取れるように、携帯電話とマイナンバーの番号を登録すると、搬送先病院などの情報がすぐに分かるようになっているのが有り難い。
三人は病院に搬送されていた。少なくとも死んではいない。
「無事でいてくれよ、亜世砂」
拳を固く握りしめると、電車が途中で停まった。
車内アナウンスが戸惑い気味に、事故による影響で運休路線や振り替え運行が出たことを告げた。
仕方なく美月は他の客達に混じって、駅の改札から外に出る。
亜世砂たちが搬送された病院はその頃には判明していた。
それから後はタクシーに乗り、渋滞に掴まったら降りて走り、を繰り返して、何とか午前中に美月は病院に辿り着いた。
思ったより遙かに時間が掛かったのは、この事故の為に取材の車や使用不能になった路線を乗り換える人などで、交通渋滞が多発したためである。
病院は出入り口にひっきりなしに救急車が出入りし、担架がピストン輸送で廊下を行き来している。
映画やテレビドラマで見た「大事故後のER」そのものの風景で、救急隊員以外の事務職員や一般患者たちは動揺した表情を隠せない。
だが美月は真っ直ぐに受付カウンターに進む。
「すみません、小日向亜世砂のクラスメイトです! 名前はこれです!」
息せき切って走り込んできた制服姿の美月が掲げたスマホの画面を見て、看護婦はすぐに彼女がまだ手術中であることと、その手術室の場所を教えてくれた。
思わず駆け出そうとして注意され、早足で手術室まで向かう。
(死ぬなよ、亜世砂)
手術室の前には次の手術を待つ患者を乗せたストレッチャーが数台、片側を開けて並んでいる。
美月はその最後尾に並ぼうとしたが、次々に来るストレッチャーを見て、結局廊下の入り口近くまで退いた。
「そうだ、電源切らなくちゃ」
手術室の付近ではマナーモードでも手術機器に異常が発生する可能性があるため、電源を切らねばならないことを思い出し、美月がスマホの画面を見ると、理宇から、
<どう?>
と短いメッセージが来ていた。
美月は手術室前から離れつつ即座に、<今病院、亜世砂手術中>と打とうとして何度もフリック入力にしくじり、壁に投げつけたくなるのを我慢した。
不在電話の着信件数は20件。
メッセージを聞くといずれも学校の学年主任、担任教師と空手部、そして陸上部の顧問からだった。
時計表示を見ると今は丁度5時間目の授業の真っ最中だ。
今のうちに、と思いなおすと、美月は病院内に三つあるうち、公衆電話のないほうの電話ボックスまで移動し、学校に電話をかける。
事務員が取ったので、自分の名前とクラス、担任の名前を告げ、今手術室の前に居ると告げてさっさと切った。
病院名を告げるのを忘れたと思ったが、どうでもよかった。
病院内なのでまたマナーモードに戻して電話ボックスから出て電源を切ると、元の廊下の入り口へ戻る。
美月は、手術室が空くまで待機しつつも、患者の手当を続ける看護師のひとりの手が空いた一瞬を見計らって、
「手術、終わりました?」
と尋ねたが、美月が来た時からまだ手術室からは誰も出ていない、と告げられた。
「……亜世砂……死ぬなよ」
目をあけていると悲惨な現実ばかりが飛びこんでくるので思わず美月は目を閉じた。
(俺、まだ友人の葬式なんかに出たかねえぞ、死んだら承知しねえぞ……)
何度も心の中、同じ言葉を繰り返す。
(俺、まだお前にあの時の恩を返してねえんだぞ、死んだら殺すぞ!)
固く手の中のスマホを握りしめる。

※第四回へ続く

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その2(全8回)


☆第2回

華社美月が小日向亜世砂に出会ったのは小学校四年生のころだ。
理宇以外では今なお付き合いのある唯一の「幼なじみ」と言える。
親の都合で転校してきた美月と理宇に、一番最初に話しかけてきたのが亜世砂だった。
当時は美月も亜世砂も、男子顔負けの行動派で、髪の毛もザックリ短くしてたし、肌も日に焼けて真っ黒だった。
そのせいか、最初からふたりは妙にウマが合った。
美月は母親をその1年前に事故で亡くし、亜世砂たちは離婚で母を失った。
半年ぐらい、お互いに「母親がいない」ことはうっすら理解していたがその原因は知らなかった。
ある日、互いにそのことを口にする機会があった。
その時、
「お前のカーチャン、生きているから羨ましいよなあ」
と思わず美月が口を滑らせた。
次の瞬間、知り合って以来初めてキッとこちらを睨んだ亜世砂の口から
「死んでいるほうがいい。綺麗なままのお母さんだもの」
そう言い返されて大喧嘩になったことがある。
大喧嘩をして美月は理宇に、亜世砂は世衣と真之斗に引き剥がされるようにして、家に帰った。
理宇に連れられて家の玄関までの道程で、美月は初めて亜世砂の母が「浮気」をして家を出て行ったと知った。
言葉の重さは子供心に理解出来た。
親に裏切られる、ということはどういうことか。
「お父さんやお母さんが僕らよりも『好きな物』が出来たからいなくなっちゃうって、怖いよね」
亜世砂がわの事情を説明した理宇が、最後にそういったとき、美月は答えられなかった。
自分の部屋に戻った後、美月なりに亜世砂はどんな気持ちなのか、自分だったらどう思うか、一生懸命考えて、眠れなくなってしまったのを覚えている。
翌朝、先に謝ってきたのは亜世砂のほうだった。
顔を合わせてこっちが一瞬、寝不足もあって美月が躊躇した次の瞬間には、もう頭を下げられていた。
「ごめん、オレが悪かった!」
躊躇した美月の背中を理宇が叩いた。
「わ、悪いのは俺もだ!」
そう言って美月も頭を下げた。
娘が喧嘩をしたという話を聞いた美月の父親が、空手道場の入門を進めたのはその翌日のことである。
母親が死に、色々と荒れそうになっていた美月は空手の中にその発散場所と自分の理性の道を見いだした。
とはいえ、そうそう上手く物事は進まない。
元来短気で大雑把で、そのくせ寂しがり屋の美月が、たびたびその道から転がり落ちそうになるごとに、亜世砂が、そして理宇が支えてくれた。
そして亜世砂と美月は同じ中学に進み、理宇もまた同じく。そこで亜世砂は陸上競技に熱中しはじめた。
それでも何かにつけてふたりは一緒に遊んでいたし、お互いの家を行き来したりもしていた。
理宇は変わらず、同じマンションの階に住んでいるので、こちらも普通に友達として付き合っていた。
そんな美月が、理宇を「友達」ではなく「男」として認識したのは高校受験を控えた中3の冬。
その年も、いつものように亜世砂と世衣に「バレンタインデー手作りのチョコレートを作るから一緒にやらない?」と誘われ、いつもなら適当な理由をつけて断るのを、なんとなく「いいよ」と約束した。
元から美月は甘い物は好きだったが、料理のレパートリーにお菓子類はまだなく、そろそろそういうものを学ぶのも楽しそうだ、と思ったからだ。
自分でも思いがけず上手く作れたガトーショコラを手に、小日向の家から帰りつつ、なんとなく理宇の通う学習塾に寄り、なんとなく理宇にガトーショコラを手渡した。
「ほら、疲れてるときは甘いモンだろ」
軽く言ったはずが、受け取る理宇の顔が真っ赤になるのを見て、妙に動悸が激しくなった。
「じゃ、じゃあなっ!」
押しつけてさっさと雪の降り始めた道を走って帰った。
雪が降るほど寒いのに、身体はかあっと熱くなっていて、美月は後悔と恥ずかしさと、微かな嬉しさを感じていた。

※第三回へ続く

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