寺沢武一氏が亡くなった。享年68。
彼がデビューした時の衝撃をどう説明すればいいのだろう。
当時、私はまだ小学生で、叔父の家で詰まれていた少年ジャンプを見かけ、読んだのがその第1話だった。
叔父はうちの一族にしては珍しく多趣味で漫画好きのガンマニアというコレクター趣味のある人だったため、そういうことは結構あった。
読み終わった後、「触ってはいけない」といわれていた叔父の部屋のモデルガンを一挺手に取り、握りしめてもう一度読み直したのを思い出す(今思えば中田のエンフィールドなんだろうけど、当時の子供の手の大きさからすると倍の大きさのウェブリーにも思えた)
それまで、多くの日本人漫画家が憧れながらも咀嚼できなかったアメリカンコミックのリアルで華麗な絵柄と奇想天外な構想を、日本流に咀嚼し、再構成、結晶化した「コブラ」の衝撃はそれほど大きかった。
バロン吉本や板橋しゅうほう、モンキーパンチの系列とは違う、「あちらのスペースオペラ」をそのまま紙に焼き付け、ニコリともしない格好良さが紙面にあった。
第1話こそフィリップ・K・ディックの「We Can Remember It for You Wholesale」を核としているものの、片腕にサイコガンを持つ、フランスの俳優J・P・ベルモンドをモデルにしたこの宇宙海賊は、日本ではキャプテン・ハーロックにならぶ、絶大な人気を誇る「宇宙海賊」となった。
日本における昭和50年代のスペースオペラの世界観の拡大は、間違いなく彼によるところが大きい。松本零士的な世界観だけでなくてよい、と彼は示した。
この人物が「手塚治虫」のアシスタントから身を起こしたというのは、一種の歴史の必然であり、興味深い偶然だろう。
その後も「ゴクウ」などの作品を連打し、早期からPCによる作画を導入した(※ただし、これは上手くいったとは言いがたい)人物でもあったが、脳腫瘍により、その作品数が激減し、二十年前からはストーリーとセリフのみの監修で、絵は代筆が噂されるようになり、この数年は闘病中で、復活しないまま亡くなられたのは本当に残念。
同時にコブラの声は実は野沢那智でも、むろん松崎しげるでもなく、ベルモンドの定番声優だった山田康雄をご本人は想定したものだったのが、ルパンとのかぶりもあってか、結局ご本人が受けてくれず、ゲーム版のテレビCMのみに終わったというあたりにも運命という物の巡り合わせを感じる