もう、半年近くになりますか。
那覇市……いえ、沖縄唯一、全国でも珍しい24時間営業の個人書店、ブックスおおみねが閉店して。
基本的に夜型人間なので、ちょっと仕事が一服したとき、行き詰まった時、「ちょっと本でも買ってくるか」と、スクーターを走らせてひょいと行ける立地にある、この小さな本屋さんには長いことお世話になりました。
私が中学の頃からあって、愛想のいいオヤジさんを筆頭に、一族で頑張るその様と、メジャーどころもマイナーどころもツボを押さえた本のラインナップが楽しかった。
ここで巡り会った本、雑誌はもちろん、ここで再会した友人、知人もおります。ここでのみ会える人も。深夜過ぎに買い物に行くと、店主であるオヤジさんがよく「ジュースでも飲まない?」とレジ越しに一〇〇円硬貨二枚ほどを渡し、それで一本飲む間、海外ドラマ好きのオヤジさんの休憩話をしていたのも懐かしい。
ここに「何も言わないでも新刊が置かれるような作家になる(※実は何度か発注しておいて貰って這いましたが、何も言わずにおかれるほどの売れっ子作家ではないので)」というのが私の密かな目標でした……アニメ化された時でさえ置かれなかったんで「おのれー」と頑張っていたのですが……。
ですが、折からの出版不況とコロナ不況で、「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「進撃の巨人」の大ヒットにもかかわらず(※本当にこの三冊には助けられたそうです)、2年ほど前からオヤジさんが引退、そして去年、いつものように買い物をして帰ろうとしたら呼び止められて「……うち、来月で閉店なんです」と寂しそうに告げられました。
そう言われて、ぽかんとし、翌朝「そうだ、今あるこの風景を撮影しておかなくちゃ」とシャッターを切りました。
オヤジさんが店番から外れ、姿を見せなくなった日から、そうなるんじゃないか、そうなって欲しくはない、とマイナビさんの「書店の泣ける話」で、この本屋をモデルにした「ブックスココミネは健在です」という小説まで書いたのに。とか、結局ここに黙っていても本が置かれる売れっ子作家になることが出来なかった忸怩たる思いも。
思えば、この数ヶ月前に、オヤジさんが店番時代、入り口左にあったドリンク類の自販機が撤去されてた時点で気づくべきだったのかも知れません(写真で鉢植えが置かれてる位置)。
その日の夜の風景。背中を向けているのはご店主兄弟のお一人。
それから後は、地元新聞でも報道されるほど人が来ました。最終日は午前0時を持って閉店、の予定が真夜中の3時近くまで常連が押し寄せていたそうです。
それだけの人たちがいながら、閉店しなくちゃいけなくなったという事実が寂しい。
そして今、跡地は新しい本屋が出来る、というようなドラマチックなことは起こらず、カレー屋さんになるようです。
以来、夜にあの辺りを通る事はなくなりましたし、それを避けるようになっています。
どうしても通らなければならないときは、そこを見ないようにしています。
そうでないと、今も、夜中、周囲の暗闇の中、輝くような店頭の明かりを背に、コンテナから本の詰まった段ボールを抱えて頑張っているご店主兄弟や、カウンターで、いつもニコニコしているオヤジさん、昼間、にこやかに近所の常連さんと会話しているオヤジさんの奥さんを幻視するような気がしまして。そうなったとき、涙腺が緩むような気がして。