カミカゼの邦 予約一覧

8月末に発売される徳間書店さんからの新刊「カミカゼの邦」
沖縄における日中紛争を発端に始まる謀略アクション小説です。
実店舗の書店さんでも予約が始まり、webの本屋さんでも大体のところが出揃ったようですのでまとめておきます。

※書籍データ

カミカゼの邦(かみかぜのくに)
著者 神野オキナ
発行 徳間書店
四六版
ISBN 978-4-19-864450-5
発売日(予定) 2017年08月29日
販売価格 1,900円 (税込 2,052円)

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そしてこの三つに加えてAmazonさんでも一昨日ぐらいから取り扱いが始まりました。

Kindle版は紙の本と同時に発売の予定です。

もろもろ壊れる

ある朝、メインマシンが急にダウンしました。
ひょっとしたら過充電かもしれないということで、一端コンセントから電源コードを外し、一時間ほどしてから再び差し込んだら、電源部分の廃熱口から煙がぽわんと。
ぎゃー!
ということで大慌てでPCのメーカー、マウスさんに電話を入れたら「すぐ送って下さい」という話で、ドック入り。
今まで購入し、基本のセットアップはしてましたが放置状態のノートPCを取りだし、ひーこらいいながら細かいセットアップの続きを強行し、16Gから4Gの世界に押し込められて、その遅さに愕然としつつも(せめてすぐに8Gにアップグレードするべきでした)、何とかカントカ、ワープロ&メール送受信機能とウェブ巡廻能力だけは回復させて今に至りますが、やはり変換速度や微妙なユーザー辞書の違い、Skypeでのチャット中、いいなりATOKのユーザー辞書が機能しなくなる(原因不明)というような症状が出、ゲンナリしながらも8月刊行予定の「カミカゼの邦」のTwitterやウェブ用の宣伝のためにと久々にモデルガンのSIGP226を引っ張り出し、ダミーカートを装填して……と思ってマガジンキャッチのボタンを押したら、ボタンがからん、と外れまして。
金属じゃないABSモデルガンの哀しさ、マガジンキャッチを止めている部分が度重なる動作に負けて、スプリングとマガジンキャッチの小さな部品が填まっている部分が小さく割れて機能しなくなったというわけです。
壊れるときは壊れるものですが、もはやいつ再生産されるかも判らないモデルガン(BBガンと違い、ユーザー数が圧倒的に少ない=需要が少ない=再生産するコストが高い)なんで、ちと涙目になっております(※なおPCはすぐに修理が終わったらしく発送しましたというメールが来ました)
そんなドタバタの果てに撮影したのがこの写真です。

 

 

 

 

 

そんなわけで、「カミカゼの邦」どうぞよろしくお願いいたします。

「カミカゼの邦」という作品を書きました。

お疲れ様です、神野オキナです。

この度「カミカゼの邦」という作品を書きました。
「あそびにいくヨ!」が終わり「疾走れ、撃て!」も完結して、以来、基本コメディ方向への作品ばかり連ねてきました。
「EXMOD」と「リラム~密偵の無輪者」はシリアス系に属しますが、あまり黒いお話にはせず、基本プロフェッショナルだったり、「人との関係性の変化」をメインにした切なさをテーマにして描いてきました。

これには「あそびにいくヨ!」開始から干支がひとまわりして新しい、若い読者のかたに向けて書いているというのもあります。
この辛いご時世に、ライトノベルにおいてまで辛い話は読みたくないよね、という思いもあります。
そういう意味で一番明るい方向に振り切ったのは「エルフでビキニでマシンガン!」ですね。
これはこれで楽しいですし、本来ライトノベルの人間ですから作りがいもあります。

ただ、時代に合わせて「使わない道具」というものも出来てくるわけです。
いえ、ペンだとかノートだとかという意味ではなく、単純に、レーベルごとの空気に合わせた微調整の方向性……ジャンルだったり描写だったり、キャラクターだったりという意味ですね。

今回の「カミカゼの邦」はそういう意味では「シックスボルト」以来、久々に自分の中にある色々な感情や思考を解放した作品となっています。

フルアクセルを踏み抜きました。

表現方法も、ストーリーもキャラクターたちも、一切手加減をしていません。
久々に、を乗り越えて、これまで踏み込んだことのない領域です。

日中が戦争するかも、という、沖縄に住んでいてこの10年、急速に膨らみはじめた悪夢と、それがもたらすであろう被害と闘い。
戦後、そこから派生するテロ、そしてwebが生み出す新しい人間同士の繋がりや利害関係のシステムと、「あり得そうな明日」を描くことにしました。
そして神野オキナ作品には珍しく「チームもの」になっています。

扱うものは戦争、テロ、復讐、虚無、欲望、愛、セックス……やりたい放題にやらせて貰いました。
普段の4倍、原稿用紙1200枚を超える初稿を仕上げるのに、たった2ヶ月しかかからなかったところを見ると、どうやらかなり、私は色々なものを鬱屈させていたようです(その代わり書き直しや整理に時間を取られましたが)。

そして、なんという奇跡かただ暗いだけ、陰鬱なだけではなく、読み終わった後に爽快感が得られるような作品が生まれました。

これまでの神野オキナ作品にはないタイプの主役ですし、脇役たちですし、物語になったと思います。

単に長いのではなく、「読み応え」のあるものが出来ました。発売までもう少しお待ち下さいませ。

※書籍データ

カミカゼの邦(かみかぜのくに)
著者 神野オキナ
発行 徳間書店
四六版
ISBN 978-4-19-864450-5
発売日(予定) 2017年08月29日
販売価格 1,900円 (税込 2,052円)

13代目ドクターは女性だそうで(後編)

さて、13代目ドクターは誰(WHO)?
ファンの間では様々な憶測が乱れ飛びました。
私が知ってるだけでもダニエル・クレイグの「007」で印象的な「Q」を演じたベン・ウィンショーからマーヴェル映画「ソー」の虹の橋の門番で「パシフィック・リム」の長官役でもあったイドリス・アルバにいたるまで、人種も役者の方向性も様々。

……とまあそういうわけで、さんざんファンをヤキモキさせた後、いよいよ新しい13代目ドクターは公開となりました。

新ドクターは女性で、ジョディ・ウィタカーという役者さんになりました。
その前にドクターの宿敵、マスターが女性となって再生したので、そういうことになるかもね、とは噂されていましたが、ビックリです。
面白いのは12代目ドクターの最後のコンパニオンは黒人女性の同性愛者という設定で、12代目ドクターとは「やんちゃな孫と頑固爺ちゃん」みたいな感じだったんですが、13代目が女性になる事で、ドクター・フー定番の「友だち以上恋人未満なドクターとコンパニオンの関係」が復活することになります。

しかしまあ、数年前「ドクターを残念美少女にしたら?」という思いつきで書き始めた時空冒険譚「イコライザー!」が図らずも先取りしたかたちになるとは(笑)
世の中というのはどう転がるか判らないもんです。

さて、13代目ドクターのお話はどうなるんでしょう。
マット・スミスの、子供っぽさとシリアスさを兼ね備えた11代目から、渋くて気むずかしい(同時にそれは思慮深さの表れでもあるんですが)ピーター・カパルディの12代目ドクターになってから、めっきり気むずかしい脚本になっていたスティーブ・モファットから、まるっきり新しい脚本とプロデューサーに変わるので、恐らくがらっと雰囲気も変わるでしょう。
個人的には「サラ・ジェーンアドベンチャー」のような明朗快活路線に行ってくれると嬉しいなあと思いつつ、イギリスらしい毒の利かせっぷりも見てみたいし、何よりも10代目ドクターに恋をしながら純情を貫いたオムニセクシャルのキャプテン・ジャック・ハークネス(スピンオフ番組『秘密情報部トーチウッド』の主役にもなりました)の復活が見たいと思っているんですが!

新刊「カミカゼの邦」のお知らせ

久々に一般向けのお仕事の報告をさせて頂きたいと思います。

実を言いますと、この半年ぐらい、とある作品にかかりっきりになっておりました。

その作品が来月、8月末にようやく発売されます。

 

 

タイトルは

「カミカゼの邦」

といいます。

カミカゼの邦(かみかぜのくに)
著者 神野オキナ
発行 徳間書店
四六版
ISBN 978-4-19-864450-5
発売日(予定) 2017年08月29日
販売価格 1,900円 (税込 2,052円)
現在、ウェブの上では以下の三箇所で予約が出来る様です。
E-hon

TSUTAYA

楽天ブックス

「リカバイヤー」以来久々の「シックス・ボルト」の路線……シリアスなハードアクションものの新作ということになりますでしょうか。
お話は東京オリンピック後を舞台に、沖縄において日本と中国が戦闘状態に突入、というところから始まります。
紛争状態が終わった後、勝利を掴んだ日本を舞台にとある陰謀が進行し、それを沖縄で戦った元民兵が知って……という内容です。
徳間書店さんからの発売、税抜きで1900円というお値段は少々お高いですが、四六判で400ページ越え、つまり400字詰め原稿用紙でのべ1200枚以上の内容、上下二段組なので読みごたえはあると思います。
また、一般文芸での発売ならではの、ハードボイルド/バイオレンスですので、陰謀、エロス、ハードアクション、グロ描写も含め、私が今現在、もてる全てのエンタメの技術を注ぎ込んで作りました。
この作品が書けたからあと10年は戦える、と我ながらに断言出来るほど、凄い作品が書けたと思います。
どうぞ、ご期待下さい!

 

EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その8(全8回)

☆第8回

学校が再開して、登校初日に、美月は偶然、亜世砂と校門で出会った。
いつものように姉の世衣と、弟分の真之斗と一緒だが、世衣が真之斗と手を繋いでいた。
明らかに三人の雰囲気が違う、と美月は首を傾げ、それ以上の大きな違和感に気付いた。
世衣の右手首の補助装具は変わらないが、真之斗の腕、亜世砂の足首を覆っていた装具がない。
「どうしたんだ。おい?」
美月がそのことを指摘すると、亜世砂は勿論、世衣までが微笑んだ。
「色々あったんですよ」
と世衣が答え、その声が数日前までのがらがら声ではなく、事故前の美声を取りもどしていることに美月は驚いた。
「美月、あとでいいもん、見せてやるよ」
と亜世砂は微笑んだ。
そして数時間後。
クラス合同で受ける体育の授業で、それまで体育着をつけたまま見学だった亜世砂が「今日は調子がいいんで参加します」と言い出した。
体育教師は、陸上部の副顧問で、一瞬痛々しい顔をしたが、「いいでしょう」と頷いた。
授業は100メートル走の測定。
やがて亜世砂の番が来た。
後ろに並ぶ美月にちょっとだけ振り向いて、亜世砂はにやっと笑った。
その笑顔が「まあ、見てろよ」という意味だと気付いて、美月は首を傾げつつ、スタートラインに移動していく亜世砂を見て驚いた。
足を引きずっていない。
それに身体の中心線が、昔のように真っ直ぐになっている。
実践型の空手をやっている美月には、数日前までの亜世砂とは別人の身体の動きになっていることが理解出来た。
スターター代わりの笛が鳴る。
だん、と亜世砂が踏み出す最初の音が、美月の耳に残っているうちに、その細い身体が50メートルのラインを超え、ゴールラインを踏んでいた。
どれくらいの早さかは分からないが、間違いなく、以前よりも早い、と美月は思った。
「え? え?」
亜世砂がゴールラインを踏んで数秒して、慌てて教師はストップウォッチのボタンを押した。
「12秒……いえ、今のナシ! 測定しなおします! 小日向さん!」
上ずった教師の声に、亜世砂はその場にしゃがみこんだ。
「すみません、先生、ちょっと気分が……」
亜世砂はそう言って片手を挙げる。
仕草はどう見ても嘘だった。
(この野郎)
にやっと美月は笑った。
「先生、俺、小日向さんを保健室に運びます!」
美月は手を挙げて大声で宣言し、亜世砂に向かって走って行くと、芝居に合わせて肩を貸してやった。
「見た?」
「ああ、見た、今の下手すりゃ10秒切ってるだろ」
「かもね」
「何があったんだ?」
「奇跡」
ふざけているような答えだが、それだけで、美月には充分だった。
傲慢かもしれないが、こいつらは勝手な期待を背負わされ、屈辱を受け、特別な苦労をしたのだ、それぐらいあっていい、と思っていた。
それに亜世砂は質問に隠し事で返せるタイプではない。
彼女が「奇跡」と呼ぶなら本当にそういうことが起こったのだろう。
「そっか、よかった」
「でも、もうオレ、人のためには走らないよ」
美月は亜世砂の横顔を見た。
「今まで、人に褒められるのが嬉しくって走ってたけど、今日、気付いた、オレ最初は楽しいから走ってたんだ、ただ、楽しいから」
意地や、怒りではなく、晴れ晴れとした表情だった。
「それなのに……いつの間にか、人のために走ってた。バカみたいだ。今日からもう、元に戻るよ、そういう意味で、さ」
「そうか、なら止めねえ。お前は、お前のために走れ」
「うん、そうする」
にかっ、と亜世砂が笑い、片手でガッツポーズをしてみせた。
「勝ったな」
美月はいい、「ああ」と亜世砂は頷いた。
ふたりはささやかな勝利を胸に、保健室へ急ぐ。
校舎に入ると、微かに世衣の歌声が流れてきた。
少し遅れてどよめきの声も。
<奇跡>は亜世砂にだけ、ではなかったらしい。
「そういうことか」
「ああ」
「いい姉妹だよな、羨ましい」
美月は心の底からそう言い、笑った。
(終)

 

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その7(全8回)


☆第7回

「校舎が崩れてる!」
叫んだのはたしか、バスケ部の誰かだったと思う。
「白いコートの少年」が学校に現れ、校舎が半壊する騒ぎが起こったことを美月が知ったのはその時だった。
後にマスコミ報道によると、相手はテロリストで、手当たり次第に爆弾を投げて吹き飛ばした……という話だったが、美月はその時、体育館の中に併設された武道場で稽古をしていて、状況を見ている。
爆発音は無かった。コンクリートが派手に崩れる音もなかった。
大量の土砂が水で一気に流れるような音と地響きだけだ。
校舎はもうもうとした土煙に包まれた。
「近づくな、ここにいろ!」
部員たちに叫んで、美月は校舎を見ながら両手を広げて、興味本位で出て行こうとする部員たちを、他の部の部長や教師たち一緒に押しとどめた。
直感が「あそこに近づいてはいけない」と叫んでいた。
何が起こったのか、という好奇心よりも直感の告げる恐怖が勝る。
その時、もうもうと立ちこめる校舎の煙の中から、人影のような物が校外目がけて跳ぶのを、美月は見たような気がした。
その日、学校近くの病院が同じテロリストに狙われ、建物が爆破されるという事件が起き、その犯人を追った警察の特殊部隊が「海ほたる」で大規模な戦闘を行い、犯人を無事に鎮圧、逮捕したという報道がなされたが、犯人が未成年であるために、以後すべての情報が伏せられた。
学校は3日間休校になったが、それから急ピッチで破壊された箇所を入れ替え部品が入るように解体、運び出された。
理宇によると、美月たちの通う学校の校舎は、大地震による損壊の可能性も視野に入れた最新のユニット式で、金さえかければ、ブロック玩具のように破損箇所を入れ替えてあっという間に元に戻るらしい。
理宇の言葉通り、校舎の破損部位は新しい部品に入れ替えられ、失われた中の設備類を搬入し、元通りに授業は再開された。
魔法のような素早さだ。
改修された部分の床と天井の色が鮮やかでなければ誰も気付かない。
「……大したもんだなあ」
暇つぶしに現場まで来て、その様子を見てぽかんと呟く美月の隣で、それに付き合ってやって来た理宇は首を捻っていた。
「でも、どうしてこんなに早く予算が下りて工事できたんだろ?」
「テロだった、ってことを早く忘れたいんじゃねえの?」
「……そんなとこか、うん。美月にしてはいい考えだ」
「どういう意味だよ!」
その頃には屋上を跳んでいった影のことなど、美月の記憶からはぬぐい去られていた。

 

 

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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その6(全8回)


☆第6回

2学期が始まって、亜世砂と世衣への風当たりを美月は目の当たりにした。

声と指先の動きを失った歌姫にして演奏家と、走れなくなったレコードブレイカー。

本人たちは犯罪を犯したわけでもなければ、人格が変わったわけでもない。
だが、周囲の目つきが明らかに変わった。
ふたりとも学校においては一種のスターであり、有名人だったものが、衝撃的な大事故の果てに、それを失ってしまったのだ。
注目を浴びていたふたりなだけに、羨むものも多く、無思慮な嫉妬の対象でもあったから、この思わぬ不幸は、その連中にとっては「見事な転落劇」だ。
陰口はあらゆる物陰で囁かれ、せせら笑う男女はあちこちに見受けられた。
特に亜世砂が籍を置いていた陸上部は実力主義の体育会系の悪い部分がモロに出た。
「天罰が下ったのよ」
一度、そう囁き合う女子部員の頬を、もう少しで美月はひっぱたきそうになって理宇に止められた。
「僕らがどんなに怒っても、ただの同情だ。彼女たちのためにはならない。君のためにも」
真っ直ぐな目でそう言われると、美月としては何も言えなくなる。
生徒会はさすがに世衣の冷静な性格と明晰な頭脳に頼るところだけあって、何も変わらなかった。
一番ひどい対応を向けたのは、教師と一般生徒の一部だった。
今まで世衣が行っていた朝礼での司会を「あの声を聞くのが怖い」「気持ち悪い」といってやめるように要請したり、声と演奏能力の消滅を理由に、世衣を生徒会長から解任しようとする動きまであった。
――――もっともそれは、さすがに生徒会の役員生徒たちの猛反発と、別の一般生徒の親から教育委員会の偉い人に通報があったらしく、なし崩しに消えてしまったのだが。
不思議なのは、そんな目に遭いながら亜世砂も世衣も、どこか楽しげな部分があったことだ。
やはり全校挙げての期待というのは重い物なのだろうか、と美月は思ったが、理宇は単純に「あのふたりには弟くんがいてくれるからね」という答えを返した。
「なんでここで真之斗君が出てくんだ?」
この話題になったのは、帰りの電車の中だった。
「……」
ガラガラに空いた座席の隣に座っていた理宇は、呆れたように美月を見て、
「気付かない?」
と尋ねた。
「小学校のころから、あの3人、ずっと本物の姉弟みたいだったろ?」
「ああ、幼なじみだもの」
「一つ質問。僕らも幼なじみだったよね?」
そこまで言われて、さすがに美月も気がついた。
「んな、まさか……」
「それにあのふたりを川に落ちる寸前の電車から救出したのは真之斗君でしょ。今までの弟分が、一気に異性へと認識が変わってもおかしくはないさ」
理宇は肩をすくめた。
「もう、ふたりとも真之斗君以外に優先させることがないんだ。それはそれで幸せだと思うよ?」
「そ、そういうものかな?」
美月はこういうことに関しては、今でも少々疎いことを自覚している……というよりも考えることが恥ずかしいので無意識に回避する癖がある。
「で、でもふたりでひとりを、か? それは……」
「修羅場になるのか、それともどっちかが素直に諦めるのか、それはあの3人が決めることだよ」
「でも真之斗君は……」
「僕は決めた。彼にも出来る」
短く言いきり、少年は参考書に目を落とした。
※第7回に続く


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EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その5(全8回)


☆第5回

手術室から出てきた亜世砂が病室で意識を回復したとき、最初にそばにいたのは美月だった。
「よう、生きてるみたいだな」
つとめて軽く言ったつもりなのに、涙が溢れた。
亜世砂たち3人はそれから3か月近い入院生活となった。
その間に夏休みに入り、彼女たちはひと夏を殆ど病室で過ごした。
美月はほぼ毎日、学校帰りに病院に足を向け、行けないときはメッセージを送って親友の亜世砂の様子を見た。
亜世砂たちと真之斗の父親がそれぞれ帰国してからもそれは続いたが、その最中に腹の立つものを見た。
陸上部の顧問と、校長、そして学年主任の教師たちとその態度だ。
学校が終わり、美月が病院を連絡すると彼らはすっ飛んできた……この時点で美月にしてみれば「なんで検索しないんだ?」と思っている。
大事な生徒なら、警察の連絡アプリに登録して探せばいい。
腹立たしさが決定的なモノになったのは、彼ら、彼女らが医者にどやどやと話を聞きに行ったことだった。
事故発生から半日が経過し、状況は落ち着いてきたものの、まだ患者たちは痛みを訴え、治療は続いている。
それなのに教師たちは担当医に状況説明を求めた……もっと腹が立ったのは誰も霧山真之斗のことは口にしなかったことだ。
空手を始めてかれこれ10年以上の歳月と、これまでの理宇や亜世砂から教えられたことが美月の中になかったら、その時点で怒鳴り散らしていたかもしれない。
ぐっと堪えて美月は亜世砂に付き添っていた。
数日後、またやって来た彼らは今度は落胆した顔をして医者との面談室から出てきた。
そのあと後、教師たちは何とも言えないわざとらしい笑顔で見舞いに来てそそくさと帰っていった。
おざなりな挨拶、という言葉の典型例を美月は初めて人の口から聞いた。
「もう、お払い箱ってことさ」
教師たちが帰った後、亜世砂はぽつりと呟いた。
「オレも、姉貴も、もう昔通りじゃない。利用価値がなければオレたちはただの生徒だ」
ベッドに仰向けになったまま、亜世砂は苦笑を浮かべようとしていた。
リハビリがあまり上手くいってないのは美月の目にも明らかだ。
だから、美月は何も言わなかった……言えなかった。
「これから、どうすんだ?」
「わかんないなー」
脳天気に言おうとした亜世砂の声が僅かに涙で歪む。
「オレ、走ることしか考えてなかったしさ、足首やっちゃったってことは、美月みたいに空手をやるわけにもいかないし。空手も下半身大事だろ? 特に足首とかさ」
「……でもお前は、トップを走ってたんだ、何にでもなれるさ」
「でもオレ、頭悪いからさ……姉貴に頼んでもっと勉強出来るようにならなくちゃ」
その日、それ以上の会話はなく、暫くしてリハビリから真之斗と、それに付き添っていた世衣が帰ってきた。
これ以上は何も言えない。
そう判断した美月は真之斗と世衣に軽く挨拶をして、「じゃあな」と席を立った。
病室を出たとき、それまで辛うじて作っていた笑顔が崩れた。
悔しかった。
自分がただの高校生にすぎないのだと思い知った日だった。

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