「 駄能力JK成毛川さん」が正式タイトルです

年明け早々ですし、楽しいweb漫画の話から始めましょう。

これもまた前回紹介した「宇宙戦艦ティラミス」を教えてくれた人からですが、

やわらかスピリッツというサイトで連載されていた「駄能力JK成毛川さん」です。
「駄能力JK成毛川さん」というのでてっきりヘッポコエスパーものだと思っていたら、主人公の成毛川さんの正体はクラスメイトの里中君と一緒に勉強会をしていてドキドキしている女の子ではなく、「ちんげちらし」という人間の陰毛を部屋のあちこちに散らすのが仕事という妖怪でした、と最初の1ページで説明されるという……こらまて(笑)
とはいえ成毛川さんは別に人外の正体があるわけではないらしいので、外見だけで言えば「無駄な能力を持ったJK」なのでタイトルに偽りはギリでない、ということになりますけれどもね(笑)

上手いのはエスパーなら人類の一種ですが、妖怪変化は明らかに人間ではないため、彼女自身は里中君との将来はきっぱり諦めていて、「だからこそ妖怪として彼の陰毛を!」という妖怪ならではの行動原理で動く、動くとドジッ子なので里中君にはラッキースケベの塊になる……だけではなくて、妖怪としての日常やらなにやらもあるというのが楽しいです。

やわらかスピリッツ「駄能力JK成毛川さん」

現在サイトには1~3話と最新6話、そして短篇が三本読めるようになっています。

2月に単行本が出て、売れ行きが良ければ続きが連載されるそうなので、よろしければ是非!

 

 

年末と言えば(昭和生まれ限定)

昭和の30年代から50年代生まれなら判っていただけるかも知れませんが、年末には「定番映画」というものがありました。

特撮関係で言えば「他の特別番組の枠」を調整するためにむちゃくちゃな時間でカットされたゴジラ映画、そして「超大作の名作映画」でした。

代表的な物として私らが小学生の頃に定番だったのが「アラビアのロレンス」と「大脱走」と「タワーリングインフェルノ」。

前者はまごうことなきD・リーン監督の歴史大作映画、後者2本はまたそれに「オールスターキャスト」が付く豪華大作で、コタツにあたりながら、あるいは親戚縁者が集まる縁戚の中ぽけっと見ていたものです。

「大脱走」と「アラビアのロレンス」「タワーリングインフェルノ」は長い上映時間もあって2週、あるいは2日にわたる「前後編」放送で、また声優さんも当時の俳優に合わせた固定枠、聞いているだけでも耳の正月、という感じでした。

「大脱走」はこれまで長くカット版の吹き替え版しかなく、フジで放送された「前後編」時の全長版が望まれてましたが、数年前にようやくその音源が見つかって、現在あるBlu-rayはこのバージョンです。

とはいえ、今の人たちから観ると、殆ど知らない俳優さんばかり(この中で未だに存命なのは今はNCISのダッキー、当時はイリヤ・クリヤキンとして有名だったデヴィッド・マッカラムぐらいでしょう)そして、捕虜収容所の中ですから当然ですが、見事なまでに女っ気のない映画でもあります。

ですがS・マックイーンがひとり二役で演じたオートバイチェイスの場面ばかりではなく、そこに至るまでがまた面白いのです。

まるで水滸伝のように、各収容所から集められてきた「脱走の職人」たちが力を合わせて史上類を見ない大量脱走を行う、というソリッド極まりないお話だからこそ、各キャラクターたちの書き込みが出来るという、無駄のない作品で、長編を書くにあたって非常に参考になります。

実はトンネルが怖いトンネル掘りの名人、視力を失っていく生真面目でバードウォッチングが趣味の偽造書類の達人と、口八丁手八丁でどんな品物でも手に入れる調子のいい物資調達の達人の友情、冷静沈着だが冷徹になりきれないリーダーたち、そして名前も出てこない脇役たち。
見事なのはひとりも「マヌケ」に見えない事。「お人好し」は居ても物語の都合に合わせた間に合わせの人物はいない、ということでしょうか。
収容所の所長は空軍の人間なので「脱走兵なんか殺してしまえ」とうそぶくSSに対して「彼らは空軍の管轄だ!口出しをしないでいただこう!」と激怒し、つとめて紳士的に接してくるし、下っ端のドイツ人の兵士でさえ、元はボーイスカウトで、21個目の記章がもらえる前にヒトラーがボーイスカウトを廃止してヒトラーユーゲントに編入された、と暗い顔をし、ふとしたことを不審に思って脱走トンネルのひとつを見つけたりもするわけで。

脱走したあとの緊迫感溢れる展開も素晴らしいです。
中でも「初歩的だぞ」と指摘されたことで…………というあたりの皮肉や、それぞれの脱走者の結末があって、ラスト、冒頭と同様に独房に放り込まれ、不敵に笑いながら壁にボールを投げ始めるS・マックィーンはひとりでこの映画をかっさらう格好良さでした。

個人的に好きなのは密造酒を作ってアメリカ独立記念日を祝う場面。
密造酒のヒドイ酒でも喜ぶぐらい兵隊が酒に飢えてるコトだけではなく、それぞれのキャラクターらしい反応や会話、そしてこの場面が実は起承転結の「転」に繋がっていくところとか、まあ、凄いというしかないです。

そしてイギリス軍の「地獄耳(インテリジェンス)」と呼ばれる大尉が後にイギリスのテレビドラマ「特捜班CI5」で鬼のコーレイ部長を演じるゴードン・ジャクソンというのは今から振り返ると不思議な因縁ですね。

アイルランド人らしく前出のヒドイ密造酒でも「いや以外といけますよこれ」と答えて他の首脳陣を呆れさせていたのも楽しい。

そして「強くてタフで無表情」イメージのC・ブロンソンが珍しく「実は弱い男」を演じております。

今の「ワンカット7秒」の映画に慣れた人には退屈に見えるかも知れませんが、酒のツマミのようにちょいちょいと観ていくと味わいがだんだん判ってくる作品だと思いますよ。

年末に速水螺旋人はいかが?

速水螺旋人という漫画家さんは不思議な人です。

地元でずっとお世話になっている先輩から「こういう面白い作品世界を描き続けている人がいるよ」と言われて同人誌を持ってこられたのはかれこれ10年ぐらい前。
その時点でもう今の速水螺旋人さんでした。

自分の世界観が確固として存在するタイプの物作りをする人というのは10年ぐらいでがらりと変わる(次の世界を作り始める等)か、自分自身の世界観から絶対に出ないで戦い続けるか、という二択をする人が多い印象なのですが、速水さんはそれから緩やかに「別の世界」と「いつもの速水螺旋人」の世界を区分けするのでは無く、二重に重ねて描いて、少しずつ領土(活躍範囲)を広げていきました。

後にふとしたご縁でご本人にお会いすることになりましたが、これがまたご本人の漫画からひょいと抜け出てきたような飄々とした楽しい方で。

ただ、キャンプフォスターの海兵隊主催のコミコンでソ連国旗を広げて同人誌を売るあたり、やっぱり描く漫画のように一筋縄ではいかない人です(笑)
作品の中でも単に楽しい、面白い、勇ましい話だけではなく、さりげなく差別や戦争の起こす人心の腐敗や「人のどうしようもない部分」などを描いてますし。

今のところの一般的な代表作はやはり「大砲とスタンプ」でしょう。

兵站という、「直接戦闘をしてはいけない」という地味で目立たないながら、実際にはとても重要な部署を、気負いもてらいも外連味もなく、淡々と描いていて、美味しい日本酒のようにつるつると読んでいけるのはサスガの手腕です。


「大砲とスタンプ」は連作短篇、という風情ですが、読み切りで淡々と、ひたすらダジャレのようなギャグを連ねた実験作が「スパイの歩き方」


往年のあずまひでおの様な不条理レベルのギャグを淡々と並べていって「ちょうど時間となりました」とばかりにひょい、と終わるような連作型、しかし、どこか品があって、あずまひでおよりも遥かに洗練された空気がまた速水螺旋人というべきでしょうか。

で、「大砲とスタンプ」番外編のような「しんどい戦争の間をちょこまか生き抜く人々」を描いている「代書屋レオフリク」と宇宙時代の脅威を人三化七(にんさんばけしち)どころか、本当に妖怪変化の力まで借りて生き抜く世界を描いた、人を食ったような微笑ましい短篇「ラクーンドック・フリート」が入っている楽しい幕の内弁当みたいな短編集がこちら。


年末年始、ほけっとした時にコタツにあたりながら読むには最適な「美味しい水のような日本酒」としていかがでしょう?

あと、ついでによろしければうちのほうで戦争を扱ってるこの作品のコミカライズ版もどうぞよろしくお願いします-。

 

サクラブリゲイド

本屋で本を買うのが好きです。
中にはそれまで見たことも無かったのに表紙をちらっと見かけた瞬間、こちらを「呼んでいる」本に巡り会えることがあるからです。

なかなか電子書籍だとそれがないんですが、今回珍しくそれが当たったのがシリウスから出ている「サクラブリゲイド」です。

日本が南洋の小さな島国に密かに軍事基地を持つ様になった少し先の未来、脊椎に障害を持った少年少女たちに「自分の足で立って歩く」ことと引き替えに「ヒトガタ」と呼ばれる二足歩行兵器の実験部隊に配属され……というのが前提として提示される世界観。

ところがその島国はアメリカから「テロ支援国家」指定されてしまい、日本側から見れば「都合の悪い存在」になった彼らは斬り捨てられてしまうが、操っている当人たちでさえ「どういう兵器かよく分からない」と思っていた「ヒトガタ」は実は……という所から始まるこのお話、それからあと海外ドラマのように先を読ませない二転三転を繰り広げていきます。

陰鬱なだけの話にならず、そして「生きるために必死に戦う」ことを読者に「共感」させる物語の作り込みはお見事で、絵も達者、「ヒトガタ」のデザインに驚くのも、その後色々仕掛けがあって……と油断が出来ずにグイグイ引き込まれていく作品です。

同時にちゃんと青春物であり、人間ドラマでもあるという豪勢さ。

今のところ4巻まで出ていますが、これはかなり面白いのでよろしければ是非。

とりあえず、書籍でも購入しようと思っております。ハイ。

「拳銃と目玉焼」

kenjuu

DVD購入していた「拳銃と目玉焼」という自主制作映画を久々に再鑑賞しました。

驚く程画面がクリアで、役者さんも明らかにプロか私も顔をしってる関西の俳優さん、芸人さん。しかも「何を映したいのか」がはっきり判る画面構成なのが凄い……と思ったら制作した人は結婚式などを撮影する業者の人でもありいわば「野放しのプロ」なんですね。
自主制作にありがちな、一刻も早く完成させたい、荒削りでも早くこの作品を世に問うという自己満足のような焦りが皆無の「本気で映画を作る、それも娯楽映画」という作り手の気概が見えます。
内容は「自警団物」の皮を被った関西の「世話物」。
真面目で気弱な男がふとしたことから「正義の味方」を始めるけれど、普段は気になる女性には声もかけられず、それどころか、その彼女は彼の知らない悲しい裏の顔があって……というお話。
大傑作とは言えないかもしれませんが、これ、続編か、テレビシリーズにしてしまったら化けるんじゃないかなあ、と思います(そういう作品だとして作っているわけではないのでしょうが)。
ジャケットにも移っているコスチュームやプロップ類も世界観にあったもので「少し格好良く、かつ今の日本の工場で作りそうなリアルな『格好悪さ』」が同居した物でちょっと欲しいぐらい(特に主人公の持つ銃器)
あと、ちゃんとしてるなあ、と思ったのは単に物語の後半にスーツ付けて走らせるだけな場面にも専用のスタントマンがいたことです。
知り合いの映画関係者に聞くと、口をそろえて「そういう所に気をつけるのは本当に大事なこと」なのだと言います。
撮影事故というのはそういう「素人でも出来そうなこと」や「一般生活で見るようなちょっとした事故の場面」をやったときに起こりやすく、被害も深刻な物になるのだとか。

オチはいかにも関西の映画らしいもので、評価が分かれるとしたらここでしょうね(笑)

 

TSUTAYA系でレンタルもしているそうなので、もしもよろしければ。

オフビートな刑事物「シャドウ・ライン」

この前久々に見返してみたのですが、3年ほど前に放送されたBBCの「シャドウ・ライン」という作品があります。

全8話という短い作品ですがこれがまあ、重いのなんの。

女王赦免で(何故か)選ばれ、出所したマフィアのボスが暗殺される、という、普通ならど派手なオープニングなのに、それをいの一番に見つけた若い警官と、老練というより、たちの悪い警官ゴロな老警官のいやな、実に嫌なやりとりで始まるというオフビートなドラマ。

事件を追う、以前相棒と共に捜査中に銃撃を受けて死にかけ、命はとりとめたもののそれ以前の記憶の一部が無い黒人刑事(相棒は死亡、そして本人は靴箱から謎の札束が出てきて、ひょっとしたら自分は……と疑うことに)と、若年性アルツハイマーの妻を抱え、この仕事を最後に引退を決めているマフィアの幹部がダブルで主役。

特に後者のクリストファー・エクルストン(「ドクター・フー」の9代目ドクター!)は儲け役。
まっとうな常識人でなおかつ怜悧な頭脳を持っているばかりに「雑」な人間ばかりの組織から抜けきれず、最後まで「先読み」をしながらもそれを回避出来ない弱さが上手い。

そんな刑事とマフィア側の事情が二重構造になり、二転三転とかみ合っていく様が素晴らしい。

生き残る者も死ぬ者も、結局誰も幸せにならないまま、システムの奴隷になってすりつぶされていく物語。

劇中に出てくる老齢の「管理者」が「マラソンマン」のマックス・フォン・シドーばりに恐ろしい。

最後に明らかになる真相は「相棒」でも扱われるような話なのだけれど、このラストは日本はおろか、アメリカでも不可能だろうなぁ。

「我々は、仲間を決して見捨てない」

という言葉がこれほど空々しく寒々しく、恐ろしく響く物語は、多分、日本では、いやもう今のアメリカでも作れない。

「人がシステムを腐らせ、腐ったシステムは人を腐らせて延命していく、そして腐った人々はそれを異常だとは思わなくなる」

というあたりがいかにもイギリスです。

これを国営放送が作るんだから……。

CSのAXNやミステリチャンネルなどで放送されることがまたあると思いますので興味のある方は是非。