椿三十郎からの派生作品

椿三十郎が、とうとう4Kコンバートされたそうで。
個人的には黒澤明作品の中では一番好きな作品です。
ところで、椿三十郎は一箇所だけ「仲代達也頼み」で省略されてる部分があって、仲代達也演じる室戸半兵衛は「切れ者」という描写はあっても「腕が立つ」という描写はほぼラストまでないんですね。
みな口々に「凄い」とはいうんですが、腕なのか頭脳なのかは曖昧です。
せいぜい三十郎が血気に流行る若侍たちに向けて「アレは虎だ」と言い放つぐらいで。
実を言うと私が「椿三十郎」を観たのはリアルタイムやリバイバル公開の劇場ではなく、黒澤明自らがCMのタイミングにいたるまでハサミを入れたゴールデン洋画劇場での「黒澤明特集」の中の一環で(黒澤作品がテレビに降りてくると言うのは当時それだけの大事件でした)、放送は「用心棒」の翌週、あの白いマフラーにリボルバー(これもまた弾倉の中に電池が入り、ハンマーが落ちると通電して銃身内の火薬が発火するという凝った代物だったそうですが)と最後まで執拗に三船をあの世に引きずり込もうという壮絶な「卯之助」のインパクトが残った状態でしたから、「同じ仲代達矢だし」と私は全然気付きませんでした。
当時の映画評の中にはそれが唯一この映画の傷という人もいたそうで

で「椿三十郎」を観たら是非岡本喜八監督の「斬る」も観て欲しいところです。

国を蝕む奸物に怒る若者たちが決起しようとして、それを旅の風来坊に停められ、彼を中心に……という同じプロットの骨子を持ちつつ、「斬る」では主人公を「椿三十郎」では奸物側にいた仲代達矢演じる元侍のやくざと、高橋悦史演じるワケアリの素浪人のふたりに割り、視点を若侍、奸物側のみならず、奸物側に利用される第三勢力としての浪人隊、という三つにするとこうまで違う話に見えるのが見事です。
物語の後半、仲代のヤクザがボロボロになるまで殴られ蹴られして、「用心棒」の三船と同じ方法で敵と戦うんですが、その方法が最も有利に働く場所を選び、最後のトドメの挿し方にまた一工夫あるのが岡本喜八監督らしい。

こちらの場合善人の御家老が東野英二郎で、スケベ親父というのも憎めないですね。

あと「奴らを全員始末したら家臣に取り立ててやる」と若侍たちを狩る側に回ることになる浪人隊の隊長の岸田森が歴戦の傭兵のような格好良さで、辛酸をなめ尽くし、酸いも甘いもかみ分けてなお、善人であり、夢を棄てられないというところが切なくて良かった。
映画における岸田森の主人公側キャラとしては「狙撃」の武器屋に並んで好きなキャラクターです。
時点が「ダイナマイトどんどん」で出番は短いながらコミカルな演技で場を掠うえせインテリヤクザの役でしょうか。

で、こちらは東映チャンネルで放送されるぐらいしか観る手段がないのですが、

「東映が古い手法で椿三十郎を換骨奪胎するとどうなるか」

というのが丹波哲郎の「隠密侍危機一髪」
こちらは内田良平が「椿三十郎」の仲代達矢演じる室戸半平太を更に強烈にしたような、奸物たちの懐刀でありながらそれ以上に過激な思考をもった役を務め、丹波が三船のキャラでありながら実質は江戸のお殿様からの密命を受けた忠義の人というアレンジが効かせてあります。
終止のんべんだらりとした丹波哲郎が時折見せる切れ者ぶりと、同時に内田良平とは幼なじみで互いの思考を読みあいつつ丁々発止するあたりとか、丹波哲郎のほうが実は諦観を持って侍社会を見ていて、内田良平のほうが理想に燃える余り、という部分が見え隠れしてて、そこをもっと膨らませれば傑作だったんでしょうが、そこは東映、あっさりチャンバラでカタを付けてしまうのが勿体ない。
ただ、こうしてみると三作ごとに骨格は共通ながら色々工夫して肉付けして一見すると同じ話に見えないようにしてるというのが興味深いですね。

最近、リメイクされた椿三十郎は……まあ観なかったことに。

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