父の最期を看取りつつ(その2)

父の看護と、金銭的工面、そして仕事というトライアングルの中をグルグル回りながら、仕事のクオリティを落とさないために私は第三者に自分自身を管理して貰うことにしました。
ご本人の都合もあるので仮に「マネジメントの人」と呼ぶことにします。
これまでの仕事の流れというのは2つの行程に別れていました。企画書立案と執筆作業です。
企画立案・プロット(あらすじ)の構築→編集部チェック→実作業として書く
までは、普通の作家さんでもやってる事です。
が、私の場合ここからの実作業行程が問題です。
執筆作業・途中でおかしな部分が見つかる→あらすじに戻って手直し→実作再開→矛盾点を見つけたり追加部分を思いつく→その場で組み込み、様子を見て続行→全体を見回してストーリーの辻褄におかしな部分が無いかチェック→大丈夫だと判断したら編集部に送る→校正校閲(基本二回行うが、沖縄からだとゲラを送っても中1日を考えねばならないため、スケジュールによっては1回のみ)→完成。
という作業工程を大体1ヶ月半から2か月でやってました。
キャラクターや世界観をほぼ全て把握しているシリーズものだから出来ることではありますが、どうしても優先されるのはストーリーの矛盾潰しで、誤字脱字まで気が回りません。
またライトノベルは漢字や言葉の使い方が独特で、校閲さんも機能しづらいところがあります(また当時、どのシリーズも10巻を越えているため、出版の数字の問題もあって、急いで刊行せねばならない、という編集部の方針でスケジュールが組まれていました)

それでもなんとか執筆行程は2ヶ月で終わらせていました。30までは無茶がきく、というやつですが、40を半ばになるともうそういうわけにはいかず、作業が終わると暫く倒れて結局3ヶ月かかるようになっていました。

問題なのは、この執筆作業のやり方はシリーズものの継続には向いていますがゼロから立ち上げる新シリーズには向きません。
世界観とキャラクターの把握にかかる時間が入ってくるからです。
さて、新シリーズの場合は前段階が変更になり、
新作作成・アイディア作り→メインキャラクター作り&世界観構築&ストーリー作り→プロット(あらすじ)の構築→編集者に送付→編集会議→ゴーサインが出る→執筆作業へ
という形になります。
そしてライトノベルは2010年を越えて「なろう」という新勢力の合流があってその数を増やしていきました。
押し流されないようにするにはなるべく打席に立ち続ける必要がありますが、アイディア作りはともかく、提出から編集部の決議までいくのに1か月から2か月かかるようになりました。
それも全てのプロットに順調にゴーサインが出るわけではなく「うちでは今回この作品はちょっと……」ということも珍しくありません。
そこでこれまでのような行程をやるとキャラクターの把握に倍以上の時間が必要になります、つまり新作作りに3か月かかる。
年間2冊で大ヒット、ならいいですが、残念ながらそんな皮算用は出来ません。
私のような作家はこれからも年間6冊以上、できれば10冊は出してこそ次のヒット作が出ると思ってます。
そして私も気がつけば40を終わろうとしています。

もうこれまでのやり方ではダメだと思いました。実感です。

親しくしていただいている榊一郎先生は講師のお仕事やお弟子さんを育てることで常に若い人の感性を吸収していますし、その量産能力はもはや一個のシステムといってもいいでしょう。
さて、神野オキナは相変わらず「工房」ではなく「作業場」でした。
それもこの12年、こさえていたのは猫耳尻尾の宇宙人が出てくる物語と銀髪ロリッ子&ドジっ子士官のがメインの小説です。
どちらも生産終了と決まった今、「新製品」を作らなければなりません。
もちろん、生産終了する品も質を落とすことは出来ません……といってるウチに「あそびにいくヨ!」は終了、「疾走れ、撃て」だけになりました。
さてどうするか。
幸い、一般向けのお仕事もチョコチョコきてはいます。
ですがライトノベルは好きですし、これからも書いていきたい。
何よりも、私のような作家は手数が勝負です。
でも父の病状はゆるやかですが「終わり」にむけて移行していきます。
自分の心の管理は自分で何とかするとして小説を書くという「仕事」を「作業化」できる部分は「作業化」し、管理せねばなりません。
その辺のスケジュール管理や、創作手法そのものの変更が必要でした。
父が亡くなってからで、というには遅すぎます。
そこで、とある人にお願いして相談役と遠隔スケジュールマネージャーをしてもらうことになりました。
その人が提案したのはこういうやり方でした。
1・アイディア作り→メインキャラクター作り&世界観構築&ストーリー作り→2・プロット(あらすじ)の構築を複数作る→3・マネジメントの人に見て貰う→修正、取捨選択→4・編集者に送付→編集会議→ゴーサインが出る→5・箱書きを作成→マネジメントの人&編集者でチェック(※その間に私は最初のうちは4の段階でまた1~3までの行程を並列で行い、出来れば他の出版社に送るところまでを繰り返す)→6・箱書きに沿って初稿を作成→7・マネジメントの人に読んで貰ってチェック→8・チェック部分の修正と変更→9・第1稿として編集部に送付→10・編集部の意見を入れる→11・第二稿作成→以後決定稿になるまで繰り返し
という形になります。
行程は11に増えましたが、作業を並行するには細かく区切ったほうが「この作品は何処まで戻れるか」が判りやすい。
そして「後で崩壊することを予想して、あえてタイトなスケジュールを最初に組んで、次第にリアルなスケジュールに変更する」というテクニックも教えて貰いました(恥ずかしながらそういうコツすらしらないままにひたすらスケジュールに間に合わせる作家人生だったんです)。
これによって並行作業で複数の作品を作ることが出来、それまでかなり手間を取らされていた「自分で自分の作品を書きながら悩みつつチェックする」という行程を飛ばして、冷静な第三者に見て貰うことによってストーリーだけではなく誤字脱字のチェックをして貰い、マネジメントの人はさらに「ほら仕事して!」と今日やること、明日やる事、今週中にやること、今月中にやることを指示し、相談に乗ってくれ、時にグチを聞いてくれるようになったのと、同時にプロットを編集部に提出する前に第三者に見て貰う、そして編集部の「意向」の「通訳」もしてくれるようになり、仕事はお陰でなんとか回るようになり、クオリティにまで気を遣うことが出来る様になりました。
そしてiPadを使用したPDFによるデータ校閲を導入を提唱してくれたのも大きいです。これなら郵送時間を考えた日時の縛りが大分浮きます!
「疾走れ、撃て!」の最終刊の構成を最初に思いついてくれたのもマネジメントの人ですし、「リラム」なんてもっと凡庸なファンタジースパイ物になったと思います。

このリラムをはじめ、2016年の後半から出始めた新作が以前の作品よりもクオリティがあがり、誤字脱字が少なくなってきたのはこのマネジメントの人のおかげです。
さて、話を父の入院に戻します。(続く)