エルフでビキニでマシンガン!外伝「エルフでビキニでクリスマス!」その5

夕方になってもますます祭りは盛況で、持ち寄った「燃やしても良い物を」をうずたかく積んだものに火が付けられるとますます盛り上がりはじめた。
「Thank you very much」をアレンジしたらしい陽気で、でも哀切溢れる音楽を流しの楽師たちが合奏し始めている。
子供たちも母親たちも、あるいは恋人たちも踊り出している。
振り付けも、完コピではないにせよ、あの映画によく似せていた。
双眼鏡でそれを眺めた俺は、自分の分のSCAR-Hを担いで学校砦の屋上に上った。
「しばらく交代しますよ。楽しんできて下さい」
屋上の監視役の人に声をかける。
「いえ、そんな銃使い様と後退だなんて女王陛下に叱られます」
「大丈夫、これは先輩……じゃなかった、女王陛下にも申請済みのことですから」
これは本当。
真夜中まで俺とキリノが入る事でふたり分常に警備シフトに空きが出来る様にしている。
ちなみに俺にはスレイプニール、キリノにはサブリナが相棒として付いているからかなり安心だ……人格に多少問題はあるが彼らは決して敵を見逃さないし、奇妙な事が起これば報告する。
ただ攻撃能力はないからそこを俺らがカバーするというのが実情。
もっとも、キリノはしっかりしてるので相棒は要らないと思うのだが当人たっての希望でサブリナがつく事になった(もっとも、キリノが自分の相方をサブリナにするかスレイプニールにするかで本気で一時間迷っていたのは秘密だ)。
新校舎の屋上を見ると、ワンピースのスクール水着にガンベルトを腰に、マフラーを首に巻いたキリノが立っているのが見える。
胸こそ先輩には劣るが、きゅっと持ち上がって引き締まったヒップの量感は全然負けてない……いやいや、何考えてるんだ俺。
あいつは一個下の妹みたいなもんだぞ?
そうそう、周囲のキリノを見る目がこのところ随分と変わった。
あの駄女神のご託宣のお陰でキリノはファッションリーダーになってしまったのだ。
そういう意味で思い切りが良かったのは先輩で、あの託宣の翌々日には、スクール水着を着けて演台に立った。
これで「女神も女王陛下も認めた衣装」となり「卑猥」という言葉は消え去った。
最初にこれを纏って女神の前に立った、ということで「銃使い」の後ろにいる不気味な少女という感じだったキリノは「女神も認める美的センスの少女」に格上げされたのだ。
戦士階級だけじゃなく、一般市民もキリノに向ける笑顔がいっそう暖かくなった。
オシャレな戦士、というのは何か不思議な気がするが、戦国時代には日本でもヨーロッパでもそういう存在がいたらしい。これは図書館で学んだことだが。
「さて、哨戒任務をはじめますかね、頼むぞスレイプニール」
「はい、あるじ様」
手すりの上にいつのまにかちょこねん、と腰を下ろし(馬なのに)、スレイプニールは渋い声で頷いた。


どれくらい、双眼鏡を覗き込んでいたのか。
気がつくと夜空になっていた。
「大丈夫ですか、後輩君?」
振り向くと、真っ赤なビキニ鎧にサンタ帽を被った先輩が白い袋を背負って立っていた。
肘まである長い白手袋、足下は真っ赤なエナメルのブーツ。
ちょっと違和感を感じた。先輩、朝は普通のブーツじゃなかったっけ?
「あ、先輩。もういいんですか?」
「ええ、予定通りにプレゼントも配り終えましたし」
にっこりと笑う。
「あとは君だけです」
「え?」
俺が首を傾げる前に、先輩は俺にぎゅっと抱きついてきた。
98のGはある胸が、布よりは分厚いが金属とは思えないしなやかさを持ったサブリナ謹製の鎧越しにむにゅりと潰れる。
水蜜桃、という言葉はジイちゃんが教えてくれたが、まさに先輩の胸はそれだった。
そして、骨を噛みそうなぐらい寒いのに、先輩の身体は防寒用のダウンジャケット(生徒会指導室で見つけた)越しにも暖かくて、柔らかい。
「あ、あの、せ先輩、ぷ、プレゼントって……」
「わ、た、し、です」
そう言うと先輩は俺の手を両手に包んで「はーっ」と息を吹きかけて暖めてくれた。
いや、ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って。
「せ、せ、先輩? ちょ、ちょっと冗談が過ぎますよ」
「冗談ではありません、銃使い殿、そして後輩君」
しっとりと濡れた声で先輩は俺に囁いた。
「あなたへのクリスマスプレゼントは、私です」
「で、ででででもですね、あ、そうか、き、キスですよね? キス? こ、こまっちゃったなああははははは」
我ながら空虚な笑みが漏れた。
「いいえ、違います、私の全てを差しあげます――――夫婦の契りを結びましょう」
「いや、それ、し、死にますって!」
「大丈夫です」
そう言うと先輩は袋の中からキラキラ光る正方形のビニールパックを取りだした。
大きさは掌に載るぐらいだが広げるとそれが幾つも連なっている。
中心部はリング状に膨らみ…………いや、俺でもそれが何かは知ってる。
アメリカ軍のサバイバルパックには「飲料水確保用」として何故か入ってるゴム製品。
避妊具。コンドーム、ジイちゃんは「コンちゃん」とも呼んでいた。
「わたし、色々とあの大呪詛を研究したんですけれど、あの呪詛が発動するのは直接粘膜の接触が行われたときだと分かりました、つまりそれがなければ発動しません」
「え?」
「つまり、私たちの間を遮る一枚の膜状のものがあれば十分なんです。そして、この前、パソコンで調べていたら見つけました、この前生徒指導室で見つけたものの中にこういうものがあるってことを」
先輩の目は潤み、ちろりと舌が唇を舐め、ぽってりと輝かせる。
俺の目はその口元に、その向こう側に見える、はだけた胸元に集中した。
「これなら…………その、大丈夫だと思うんです」
「で、ででででも先輩」
「構いません、わたしは、あなたに恩があります」
「そ、その、先輩は俺のことをどう思って……」
「この状況で、理解出来ませんか?」
言って先輩は体重を俺自身に駆けた。
「いやあの、そ、それはそうですが……」
俺の膝は力を失い、ずるずると地面に座り込んだ。
「…………ね?」
先輩の前髪がはらりと額からひと房垂れて、俺の額に触れた。
気がつくとそれだけ顔が近づいている。
もう、色々な物が我慢できなくなっていた。
「せ、せんぱ……」

い、と言おうとした瞬間、肩を揺すって起こされた。

「寝るな、馬鹿」
目を開けるとスクール水着のキリノがいつの間にか屋上を囲むフェンスに背中を預けて眠ってた俺を揺さぶってるところだった。
「いやまさか、お、お前まで避妊……」
ぐ、と言いかけて、今のが夢で、こっちが現実で、当然「何もなかった」事に気づく。
「あ、俺寝てたのか?」
「出なければ起こしに来ない。そろそろ交代時間」
「な、何にも無かったか?」
「大丈夫ですあるじ様」
スレイプニールが受け合ってくれた。
「ご主人様が寝ていたのはほんの2分少々、その間この砦周辺、半径10キロ圏内に動体反応はありませんでした。なお現在の気温は摂氏マイナス7度、そろそろ雪が降ってきます」
「そっか……スマン」
言いながら俺は自分の股間が「暴発」してないか意識を集中させたが、手前の状況ではあってもそれはなく、安堵した。
キリノは鼻もいい。死んでも「暴発」の状況をかぎ当てて欲しくはなかった。
「あんた、疲れてる。ちゃんと寝た?」
「まあね、そこそこには」
どうして居眠りのほうがよく眠れたと思えるんだろう。そんなことを考えながら俺は答えたが、
「今の睡眠の質の話じゃないわ。普段寝てるか、ってこと」
「そういえばこのところドタバタしてたからなぁ」
「風邪引くわよ。あなたは私みたいな女と違ってビキニもワンピースもご加護を与えてくれないから」
「…………てことはその格好、寒くないのか?」
「あんまり」
「てことは少しは寒いのか」
「でも厚着してるのと変わらないぐらいには暖かい」
なるほど、駄女神でも霊験あらたかなのは変わらないのか。
「さあて、皆さんへプレゼントですよーっ!」
砦の外では、櫓に上がった女王陛下先輩が白い大きな袋の口を開いているところだった。
ということはもうすぐ十二時、宴も終わるということだ。
「さー、受け取って下さーい!」
いってばらばらとお菓子の入った小さな紙袋を投げる。
子供も大人たちもテンションが上がっているので歓声をあげてそれに手を伸ばした。
クリスマスプレゼントとしては首を傾げる配りかただが、城にも無尽蔵にプレゼントが眠ってるわけではない。
どうせなら楽しく、ということでこうなった。
さらに四方の兵士からもプレゼントの小袋が飛んだ。
30分ぐらい先輩たちはプレゼントをばらまき、12時の鐘が鳴ると、それは終わった。
「では皆さん、今年もありがとう、よりよい来年を迎えましょう! さようなら!」
櫓の上で先輩が声をはりあげ、宴は終わった。
興奮冷めやらぬまま、群衆は立ち去りがたくしばらくはそこにいたが、やがてかがり火が消されはじめると、家路につき始めた。
先輩たちも戻ってくる。
「さて、暖かいコーヒーでも淹れて、先輩たちを迎えようか」
「そうね」
交代する兵士達に「あとをよろしく」と頼み、俺たちは階段を降りた。
「なあキリノ」
「なに?」
「俺のことを『お前』とか『あんた』とか言うのはそろそろやめないか? 俺一応一歳だけだけどお前より年上だし、ここは出来たてだけど王宮の一種だしさ」
「じゃあなんて呼べばいい? お兄ちゃんとか、お兄様とか?」
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
「そうだな……」
俺らはそんな会話をしながら、階段を降りていった。

何はともあれ、こうしてテ=キサス初のクリスマスは無事に終わった。

赤いビキニ鎧と、キリノのワンピース姿をを見た鍛冶屋のおかみさんたちが、何かを思いついてしなやかな金属の糸で作った真っ赤なハイレグワンピース鎧を「発明」してキリノに着てくれないかと持って来るのはこの一週間後の話である。

まあ、それはそれとして。
クリスマスのドタバタが終わってひと息ついた翌日。
さて溜まっていた書類を、ということでいつもより頑張った日の夜。
俺はキリノの部屋として当てられた生徒指導室で妙なものを見た。
氷柱の中に閉じ込められている白目を剥いた二頭身のカウガール。
もちろん二頭身のカウガールというのはサブリナのことだ。
「おい、なにやってるんだ?」
部屋の主のキリノに俺は尋ねた。

「エルフでビキニでマシンガン!」外伝「エルフでビキニでクリスマス!」終
「エルフでビキニでお正月!」に続く。