EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その6(全8回)


☆第6回

2学期が始まって、亜世砂と世衣への風当たりを美月は目の当たりにした。

声と指先の動きを失った歌姫にして演奏家と、走れなくなったレコードブレイカー。

本人たちは犯罪を犯したわけでもなければ、人格が変わったわけでもない。
だが、周囲の目つきが明らかに変わった。
ふたりとも学校においては一種のスターであり、有名人だったものが、衝撃的な大事故の果てに、それを失ってしまったのだ。
注目を浴びていたふたりなだけに、羨むものも多く、無思慮な嫉妬の対象でもあったから、この思わぬ不幸は、その連中にとっては「見事な転落劇」だ。
陰口はあらゆる物陰で囁かれ、せせら笑う男女はあちこちに見受けられた。
特に亜世砂が籍を置いていた陸上部は実力主義の体育会系の悪い部分がモロに出た。
「天罰が下ったのよ」
一度、そう囁き合う女子部員の頬を、もう少しで美月はひっぱたきそうになって理宇に止められた。
「僕らがどんなに怒っても、ただの同情だ。彼女たちのためにはならない。君のためにも」
真っ直ぐな目でそう言われると、美月としては何も言えなくなる。
生徒会はさすがに世衣の冷静な性格と明晰な頭脳に頼るところだけあって、何も変わらなかった。
一番ひどい対応を向けたのは、教師と一般生徒の一部だった。
今まで世衣が行っていた朝礼での司会を「あの声を聞くのが怖い」「気持ち悪い」といってやめるように要請したり、声と演奏能力の消滅を理由に、世衣を生徒会長から解任しようとする動きまであった。
――――もっともそれは、さすがに生徒会の役員生徒たちの猛反発と、別の一般生徒の親から教育委員会の偉い人に通報があったらしく、なし崩しに消えてしまったのだが。
不思議なのは、そんな目に遭いながら亜世砂も世衣も、どこか楽しげな部分があったことだ。
やはり全校挙げての期待というのは重い物なのだろうか、と美月は思ったが、理宇は単純に「あのふたりには弟くんがいてくれるからね」という答えを返した。
「なんでここで真之斗君が出てくんだ?」
この話題になったのは、帰りの電車の中だった。
「……」
ガラガラに空いた座席の隣に座っていた理宇は、呆れたように美月を見て、
「気付かない?」
と尋ねた。
「小学校のころから、あの3人、ずっと本物の姉弟みたいだったろ?」
「ああ、幼なじみだもの」
「一つ質問。僕らも幼なじみだったよね?」
そこまで言われて、さすがに美月も気がついた。
「んな、まさか……」
「それにあのふたりを川に落ちる寸前の電車から救出したのは真之斗君でしょ。今までの弟分が、一気に異性へと認識が変わってもおかしくはないさ」
理宇は肩をすくめた。
「もう、ふたりとも真之斗君以外に優先させることがないんだ。それはそれで幸せだと思うよ?」
「そ、そういうものかな?」
美月はこういうことに関しては、今でも少々疎いことを自覚している……というよりも考えることが恥ずかしいので無意識に回避する癖がある。
「で、でもふたりでひとりを、か? それは……」
「修羅場になるのか、それともどっちかが素直に諦めるのか、それはあの3人が決めることだよ」
「でも真之斗君は……」
「僕は決めた。彼にも出来る」
短く言いきり、少年は参考書に目を落とした。
※第7回に続く


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