EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その5(全8回)


☆第5回

手術室から出てきた亜世砂が病室で意識を回復したとき、最初にそばにいたのは美月だった。
「よう、生きてるみたいだな」
つとめて軽く言ったつもりなのに、涙が溢れた。
亜世砂たち3人はそれから3か月近い入院生活となった。
その間に夏休みに入り、彼女たちはひと夏を殆ど病室で過ごした。
美月はほぼ毎日、学校帰りに病院に足を向け、行けないときはメッセージを送って親友の亜世砂の様子を見た。
亜世砂たちと真之斗の父親がそれぞれ帰国してからもそれは続いたが、その最中に腹の立つものを見た。
陸上部の顧問と、校長、そして学年主任の教師たちとその態度だ。
学校が終わり、美月が病院を連絡すると彼らはすっ飛んできた……この時点で美月にしてみれば「なんで検索しないんだ?」と思っている。
大事な生徒なら、警察の連絡アプリに登録して探せばいい。
腹立たしさが決定的なモノになったのは、彼ら、彼女らが医者にどやどやと話を聞きに行ったことだった。
事故発生から半日が経過し、状況は落ち着いてきたものの、まだ患者たちは痛みを訴え、治療は続いている。
それなのに教師たちは担当医に状況説明を求めた……もっと腹が立ったのは誰も霧山真之斗のことは口にしなかったことだ。
空手を始めてかれこれ10年以上の歳月と、これまでの理宇や亜世砂から教えられたことが美月の中になかったら、その時点で怒鳴り散らしていたかもしれない。
ぐっと堪えて美月は亜世砂に付き添っていた。
数日後、またやって来た彼らは今度は落胆した顔をして医者との面談室から出てきた。
そのあと後、教師たちは何とも言えないわざとらしい笑顔で見舞いに来てそそくさと帰っていった。
おざなりな挨拶、という言葉の典型例を美月は初めて人の口から聞いた。
「もう、お払い箱ってことさ」
教師たちが帰った後、亜世砂はぽつりと呟いた。
「オレも、姉貴も、もう昔通りじゃない。利用価値がなければオレたちはただの生徒だ」
ベッドに仰向けになったまま、亜世砂は苦笑を浮かべようとしていた。
リハビリがあまり上手くいってないのは美月の目にも明らかだ。
だから、美月は何も言わなかった……言えなかった。
「これから、どうすんだ?」
「わかんないなー」
脳天気に言おうとした亜世砂の声が僅かに涙で歪む。
「オレ、走ることしか考えてなかったしさ、足首やっちゃったってことは、美月みたいに空手をやるわけにもいかないし。空手も下半身大事だろ? 特に足首とかさ」
「……でもお前は、トップを走ってたんだ、何にでもなれるさ」
「でもオレ、頭悪いからさ……姉貴に頼んでもっと勉強出来るようにならなくちゃ」
その日、それ以上の会話はなく、暫くしてリハビリから真之斗と、それに付き添っていた世衣が帰ってきた。
これ以上は何も言えない。
そう判断した美月は真之斗と世衣に軽く挨拶をして、「じゃあな」と席を立った。
病室を出たとき、それまで辛うじて作っていた笑顔が崩れた。
悔しかった。
自分がただの高校生にすぎないのだと思い知った日だった。

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