EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その4(全8回)


☆第4回

高校受験が終わったその夜。
美月は理宇に会うべく道を急いでいた。
近年では珍しい大雪が降る、と言われた夜が来る前に、理宇と会って話がしたかった。
そうでなければ合格発表まで不安で仕方がなかったから。
理宇にメッセンジャーで居場所は聞いていた。
いつもボンヤリしているようで妙に細かいところに気が回る上に冷静沈着な部分のある少年は、高校受験が終わったから、と半年間足を踏み入れていなかったマンガ専門の本屋にいる。
角を曲がり、美月自身つき合いもふくめ、何度か入ったことのあるビルの前まで来ると、理宇の姿が見えた。
「よ……」
よお、といつものように声をかけようとした美月は、何故かその言葉を言えなかった。
「理宇君、私は、あなたが好きです」
理宇の前には小柄な少女がいた。
中学の先輩、小柄で腰まである長い髪。頭が良くって今はここの地域では一番の進学校に通い、英語とドイツ語、二種類の中国語まで喋れるクァドリンガル。
優しい微笑みをいつも浮かべている少女は、中学校時代、亜世砂の姉の小日向世衣と並んでも、唯一色あせて見えない華やかな存在だった。
美月も彼女に何かと世話になった。
時には理宇でも手に余るような問題を彼女が解決、あるいは忠告してくれた。
その先輩が。

理宇を相手に告白をしてる。

頭の中が真っ白になり、気がついたら美月は身を翻してその場から立ち去ろうとした。
「おい、美月?」
最初の角を曲がろうとしたら、コート姿の亜世砂が立っていた。
このとき、亜世砂は本当に偶然、例の弟分の霧山真之斗の為にマンガを買いに来ていたのだという。
「どうしたんだよ?」
地獄に仏、という慣用句が美月には痛いほど理解出来た。
胸が苦しい、泣き出したい、どうすればいいのか分からない。
だから素直に亜世砂にすがりついて、今見たことを告げた。
「俺、どうすればいいのか…俺……俺……」
「逃げるな」
親友は、美月の言葉が終わると即断した。
「お前が逃げ出したのは、怖いからだ、泣いているのは失くしたくないからだ。オレも一緒に行く、理宇君にちゃんと「好きだ」って言え」
「でも……でも……」
「オレ、何年お前たち見てると思う?」
冗談を言ってる顔ではなかった。
「今、引き返さなかったら、美月は、ずっと後悔すると思う」
「なんで分かる」
「直感」
親友の言葉は単純明快だった。
その目が、美月に決意させた。
「分かった、戻る」
短く、断ち切るように答えて、美月は踵を返した。
息せき切ってビルの前に戻り、「先輩」が理宇に告白を終えて抱きつこうとする寸前、美月は人生で最初で最後の大声を出した。
「理宇、好きだ!」
「先輩」の動きが停まり、そして少年……理宇は振り返って微笑み、頷くと、先輩に頭を下げた。
そしてその夜、美月は初めて理宇とキスをした。
翌日、そのことを美月は、亜世砂にだけ報告し、亜世砂は誰にも漏らさなかった。
高校1年の秋口、偶然他のクラスメイトが、美月と理宇がデートしている現場に出くわすまで、ふたりの関係は校内の誰にも知られなかった。
知られた後も、亜世砂は一切その話題の輪に加わらず、ただひとこと美月に「有名人になるってのは辛いだろ?」と笑っただけだ。
それがまた美月には嬉しかった。

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