EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その3(全8回)

☆第3回

救急病院に向かう途中、警察発表をチェックしていると、ICカードから判明した被害者の名前の中に、小日向姉妹が出ていた。
そして彼女たち姉妹の弟も同然の、霧山真之斗の名前も。
去年から、こういう大規模事故に対しては、すぐに家族、あるいは知人が連絡を取れるように、携帯電話とマイナンバーの番号を登録すると、搬送先病院などの情報がすぐに分かるようになっているのが有り難い。
三人は病院に搬送されていた。少なくとも死んではいない。
「無事でいてくれよ、亜世砂」
拳を固く握りしめると、電車が途中で停まった。
車内アナウンスが戸惑い気味に、事故による影響で運休路線や振り替え運行が出たことを告げた。
仕方なく美月は他の客達に混じって、駅の改札から外に出る。
亜世砂たちが搬送された病院はその頃には判明していた。
それから後はタクシーに乗り、渋滞に掴まったら降りて走り、を繰り返して、何とか午前中に美月は病院に辿り着いた。
思ったより遙かに時間が掛かったのは、この事故の為に取材の車や使用不能になった路線を乗り換える人などで、交通渋滞が多発したためである。
病院は出入り口にひっきりなしに救急車が出入りし、担架がピストン輸送で廊下を行き来している。
映画やテレビドラマで見た「大事故後のER」そのものの風景で、救急隊員以外の事務職員や一般患者たちは動揺した表情を隠せない。
だが美月は真っ直ぐに受付カウンターに進む。
「すみません、小日向亜世砂のクラスメイトです! 名前はこれです!」
息せき切って走り込んできた制服姿の美月が掲げたスマホの画面を見て、看護婦はすぐに彼女がまだ手術中であることと、その手術室の場所を教えてくれた。
思わず駆け出そうとして注意され、早足で手術室まで向かう。
(死ぬなよ、亜世砂)
手術室の前には次の手術を待つ患者を乗せたストレッチャーが数台、片側を開けて並んでいる。
美月はその最後尾に並ぼうとしたが、次々に来るストレッチャーを見て、結局廊下の入り口近くまで退いた。
「そうだ、電源切らなくちゃ」
手術室の付近ではマナーモードでも手術機器に異常が発生する可能性があるため、電源を切らねばならないことを思い出し、美月がスマホの画面を見ると、理宇から、
<どう?>
と短いメッセージが来ていた。
美月は手術室前から離れつつ即座に、<今病院、亜世砂手術中>と打とうとして何度もフリック入力にしくじり、壁に投げつけたくなるのを我慢した。
不在電話の着信件数は20件。
メッセージを聞くといずれも学校の学年主任、担任教師と空手部、そして陸上部の顧問からだった。
時計表示を見ると今は丁度5時間目の授業の真っ最中だ。
今のうちに、と思いなおすと、美月は病院内に三つあるうち、公衆電話のないほうの電話ボックスまで移動し、学校に電話をかける。
事務員が取ったので、自分の名前とクラス、担任の名前を告げ、今手術室の前に居ると告げてさっさと切った。
病院名を告げるのを忘れたと思ったが、どうでもよかった。
病院内なのでまたマナーモードに戻して電話ボックスから出て電源を切ると、元の廊下の入り口へ戻る。
美月は、手術室が空くまで待機しつつも、患者の手当を続ける看護師のひとりの手が空いた一瞬を見計らって、
「手術、終わりました?」
と尋ねたが、美月が来た時からまだ手術室からは誰も出ていない、と告げられた。
「……亜世砂……死ぬなよ」
目をあけていると悲惨な現実ばかりが飛びこんでくるので思わず美月は目を閉じた。
(俺、まだ友人の葬式なんかに出たかねえぞ、死んだら承知しねえぞ……)
何度も心の中、同じ言葉を繰り返す。
(俺、まだお前にあの時の恩を返してねえんだぞ、死んだら殺すぞ!)
固く手の中のスマホを握りしめる。

※第四回へ続く

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