EXMOD2 外伝「華社美月の風景」その2(全8回)


☆第2回

華社美月が小日向亜世砂に出会ったのは小学校四年生のころだ。
理宇以外では今なお付き合いのある唯一の「幼なじみ」と言える。
親の都合で転校してきた美月と理宇に、一番最初に話しかけてきたのが亜世砂だった。
当時は美月も亜世砂も、男子顔負けの行動派で、髪の毛もザックリ短くしてたし、肌も日に焼けて真っ黒だった。
そのせいか、最初からふたりは妙にウマが合った。
美月は母親をその1年前に事故で亡くし、亜世砂たちは離婚で母を失った。
半年ぐらい、お互いに「母親がいない」ことはうっすら理解していたがその原因は知らなかった。
ある日、互いにそのことを口にする機会があった。
その時、
「お前のカーチャン、生きているから羨ましいよなあ」
と思わず美月が口を滑らせた。
次の瞬間、知り合って以来初めてキッとこちらを睨んだ亜世砂の口から
「死んでいるほうがいい。綺麗なままのお母さんだもの」
そう言い返されて大喧嘩になったことがある。
大喧嘩をして美月は理宇に、亜世砂は世衣と真之斗に引き剥がされるようにして、家に帰った。
理宇に連れられて家の玄関までの道程で、美月は初めて亜世砂の母が「浮気」をして家を出て行ったと知った。
言葉の重さは子供心に理解出来た。
親に裏切られる、ということはどういうことか。
「お父さんやお母さんが僕らよりも『好きな物』が出来たからいなくなっちゃうって、怖いよね」
亜世砂がわの事情を説明した理宇が、最後にそういったとき、美月は答えられなかった。
自分の部屋に戻った後、美月なりに亜世砂はどんな気持ちなのか、自分だったらどう思うか、一生懸命考えて、眠れなくなってしまったのを覚えている。
翌朝、先に謝ってきたのは亜世砂のほうだった。
顔を合わせてこっちが一瞬、寝不足もあって美月が躊躇した次の瞬間には、もう頭を下げられていた。
「ごめん、オレが悪かった!」
躊躇した美月の背中を理宇が叩いた。
「わ、悪いのは俺もだ!」
そう言って美月も頭を下げた。
娘が喧嘩をしたという話を聞いた美月の父親が、空手道場の入門を進めたのはその翌日のことである。
母親が死に、色々と荒れそうになっていた美月は空手の中にその発散場所と自分の理性の道を見いだした。
とはいえ、そうそう上手く物事は進まない。
元来短気で大雑把で、そのくせ寂しがり屋の美月が、たびたびその道から転がり落ちそうになるごとに、亜世砂が、そして理宇が支えてくれた。
そして亜世砂と美月は同じ中学に進み、理宇もまた同じく。そこで亜世砂は陸上競技に熱中しはじめた。
それでも何かにつけてふたりは一緒に遊んでいたし、お互いの家を行き来したりもしていた。
理宇は変わらず、同じマンションの階に住んでいるので、こちらも普通に友達として付き合っていた。
そんな美月が、理宇を「友達」ではなく「男」として認識したのは高校受験を控えた中3の冬。
その年も、いつものように亜世砂と世衣に「バレンタインデー手作りのチョコレートを作るから一緒にやらない?」と誘われ、いつもなら適当な理由をつけて断るのを、なんとなく「いいよ」と約束した。
元から美月は甘い物は好きだったが、料理のレパートリーにお菓子類はまだなく、そろそろそういうものを学ぶのも楽しそうだ、と思ったからだ。
自分でも思いがけず上手く作れたガトーショコラを手に、小日向の家から帰りつつ、なんとなく理宇の通う学習塾に寄り、なんとなく理宇にガトーショコラを手渡した。
「ほら、疲れてるときは甘いモンだろ」
軽く言ったはずが、受け取る理宇の顔が真っ赤になるのを見て、妙に動悸が激しくなった。
「じゃ、じゃあなっ!」
押しつけてさっさと雪の降り始めた道を走って帰った。
雪が降るほど寒いのに、身体はかあっと熱くなっていて、美月は後悔と恥ずかしさと、微かな嬉しさを感じていた。

※第三回へ続く

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