電子書籍版「エルフでビキニでマシンガン!」発売記念掌編・その4(完結編)

エルフでビキニでマシンガン!外伝「若き女王の旅立ち」完結編

「………同じ世界の、違う場所を見ることはできる?」
『はい』
そしてその日から、彼女は表向きは「これまでの激務で体調を崩した」ということにして自室に引きこもることにし、実際は抜け道からこの地下の「門」へ毎日やって来ては「行く先」を観察した。
ある程度観察し、慣れてくるとすぐに行きたくなったが、行くにしても何をどうすればよいのかを考えねばならない。
「門」に命じてあちこちを見せて貰うと、この世界にも貨幣があることが分かった。
人々はこの世界でも商取引をしている。そして「金(きん)」はこの世界と同じ価値があるのだと理解した。
三日すると女王は執務に復帰した。
それからさらに半年、毎夜執務が終わると寝る時間を少し削って「門」の所に降りていき、風景を見、そこから得られる情報を書き留めていった。
やがて彼女の分厚い羊皮紙の帳面は情報の整理と、この世界で手に入れるべき物のリストを作り上げていた。
特に彼女の心を捕らえたのはとある武器である。
偶然、向こう側のあちこちを見ていると、「てれび」という動く絵と音(!)が入る記録水晶のようなものがあって、そこで演じられている劇に出てきた女性達が、彼女たちが崇める女のための戦神、ビキニの装束と同じものをまとい、ヨタヨタとあちこちに走ったり転んだりしながら使う武器。
「マシンガン、あるいはアサルトライフル、サブマシンガンと呼ばれる半自動小銃、短機関銃の類いです」
と「門」は説明した。言葉の意味の半分は翻訳魔法を通じてもなお分からなかったが、それでもあれが弓矢などとは想定もできない絶大な攻撃力を秘めた武器なのは理解出来た……なによりも細い腕の大して鍛えてもいないであろう女たちが、大の男たちを片っ端からなぎ倒す威力があるのだ。
リストの真っ先に「マシンガン」の項目が描き込まれたのは言うまでもない。
それから、彼女は腹心の中の腹心である警護役の双子の戦士と乳母でもあった女性に「この国を救うために三日間留守にする、その間を何とか誤魔化して欲しい」と説得し、きっかり半年後、「門」の前に立った。
「門よ、私はあなたを使います」
『事前調査はお済みですね?』
「ええ」
頷く女王の前に「門」の一部が開き、中から小さな箱を押し出した。
「これは?」
『結界装置です。これで四方を囲めば王城と同じ面積で中のものを全て持ち帰ることができます』
「人も?」
『無条件ではありません、これまでご説明した通り……』
とそれから「門」は何度目かになるいくつかの注意事項説明を繰り返した。
「なるほど…………分かりました」
女王は頷いてその小箱をこれまで苦労して運んできた荷車一杯の金貨袋の山の上に置かれた執務服と帳面を収めた竜用の鞍袋の中に納め、銀色の胸と腰を覆う金属の鎧…………ビキニの鎧に身を包み、荷車をゆっくりと引いて「門」へと進み始めた。
ここからは自分ひとりだ。
正直、恐ろしさに身がすくむ思いがしたが、頭を振って怯懦を振り払う。
門が輝きはじめ、その内側にもこれまでの風景では無い青白い光の幕が下りる。
『準備は整いました、我が主、お進み下さい…………これが最後のお目もじになります…………どうぞ良い旅を』
「ええ、ありがとう」
頷いて、「門」の注意通り、若き女王は眼を閉じて真っ直ぐに進む。
ゴロゴロという石の上を進む車輪の音が消え、しかし眼を閉じたまま彼女はゆっくりとしかし確実に馬車一台分の金貨を引っ張りながら「門」の中を抜けていく。
やがて、荷車の車輪が再び音を立てた。
軟らかい土の感触がふくらはぎまでのブーツを履いた足の裏から伝わってくる。
風が頬を撫でていき、ようやく彼女は歩みを停め、深い息をついた。
息を吸い込む。
テ=キサスとは違い、寒い空気が肺を満たす。
目を開ける。
これまで「門」の内側で見ていた風景が彼女の周囲全てに広がっていた。
「すごい…………」
ここは彼女が選んだ場所だ。
周囲は低い塀で囲われ、その彼方に眩く夜を飾る宝石のように人工の、魔法では無い明かりが敷き詰められている。
「綺麗…………」
「門」から見た小さな風景ではなく、眼前広がる広大な「異世界」に彼女は暫く見とれていた。
が、
「君、こんな所で何をしてるんだ!」
眩い光の筒が向けられ、若き女王は自分がうっかり周囲の警戒を怠っていたことに気がついた。
眩い光を避けるために掌を顔前にかざして振り向くと、そこには初老の警備員がぽかんと口を開けて立っている。
「この寒空に君は一体なんて格好を……ああ、そうか、コスプレの撮影か、許可は取ったのかね? まったくこの旧校舎は四方からしっかり施錠されているはずなのにどうやって入ったんだ? 鍵を壊したんじゃあるまいね? 名前は? ここの生徒かね? 他に何人ここに……」
イライラと矢継ぎ早に言いながら腰のトランシーバーを耳に当てて報告しようとする警備員の額に女王はちょい、と人差し指を当てた。
その指に填めた小さな指輪の宝石が小さく燃え尽きる。
警備員の顔から表情が抜け落ちていた。
「あなたは今日も見回りをして、何も見ませんでした。そのままお戻りになられて、いつものようになさってください」
「…………はい」
こっくんと頷き、警備員はそのままふらふらとした足取りで去って行く。
「…………そういえば衛士の人が見回る時間があるのを忘れていました」
子供のようにはしゃいで思わぬ危機を招いてしまったことを恥じ、若きテ=キサス女王は呟いて顔を赤らめた。
そして、荷馬車を、警備員が「旧校舎」と呼ぶうっそうとしたほこり臭い建物の大きな玄関から中に入れる。
かつてずらりと並んでいたであろう下駄箱の形に新しいコンクリの床がその金貨の重みで軋むような音を立てた。
そして
「記憶操作の魔法石はもう三つしかありませんから、注意しないと……」
と燃え尽きた指輪を白い指先から抜いて、革袋に収め、新しい指輪を取りだして填め、ついでに執務服を取りだして身に纏う。
玄関まで戻るとあちこち古びて曇った巨大な壁の姿見の前で自分の身なりを点検する。
口の中で呪文を唱えながら、ゆっくりと、優雅に一回転すると、黄金の蜂蜜を思わせる髪の毛は烏の濡れ羽色に、長い耳はヒト族のそれへと外見を変えた。
正確には肉体を変化させたのでは無く、自分の身体の上にそう見える幻影を纏っただけなのだが。
「服は…………あれが多分、ここでは目立たないでしょうね」
壁から剥がし忘れて残ったと思しい「正しい男女の制服/三年生」と下に小さく書かれたポスターの前に立つと、女王は執務服にも幻影をかけた。
「…………これで、よし」
と腰に手を当てて頷き、女王はとりあえず荷車を引き入れた「部屋」へと戻っていった。
やがて彼女が「先輩」と名乗り「後輩」となる少年に出会うのはこの一週間後のことである。

エルフでビキニでマシンガン!外伝「若き女王の旅立ち」終