エルフでビキニでマシンガン!特別読み切り短篇「鬼神キリノ・御年七歳」

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「お祖父ちゃんはロシアンマフィア」

キリノがその言葉を聞いたのは確か4歳のころ。アメリカ政府と連動した証人保護プログラムに日本が署名したばかりで、現場が不慣れで不祥事が続出していた時期。
二週間しないうちに彼女の家…………当時は大きなアパートだったが…………の玄関に「マフィアは出て行け」という落書きがなされた。
キリノが始めて「マフィア」という言葉の意味を知ったのもその時だ。
犯罪者、悪い人たちの集団。
祖父は巌のような、滅多に表情を動かさない人だったが、キリノには優しい。
そして初めて祖父はキリノに涙を見せた。
抱きしめて、「すまない、すまない」と繰り返した。
その時から疑問がキリノの胸の中に芽生えた。
お祖父ちゃんがマフィアだから何だというのだろう。
こんなに優しいのに。
そして父は祖父がマフィアであることを悔いて告発証言をして命を狙われている偉い人なのだと教えてくれた。
翌日、政府の役人が来てぺこぺこと祖父と父母に頭をさげ、キリノは引っ越しになった。
次は5歳の秋。
小学校の学芸会で、担任に「もうしわけないけどあなたは欠席してくれないかしら」と頼まれたときだ。
「だって、あなたのお祖父さんはマフィアでしょう? そういう怖い人が来て貰っては困るの」
キリノは弁が立つ少女ではない、でも一生懸命祖父がいい人であることや、前非を悔いて証言した「元」マフィアなのだと訴えた。
だが、担任教師は困ったような笑みを浮かべ同じ言葉を繰り返した。
彼女は何一つ、自分の話を聞いてくれていなかった――――瞬間、キリノは「敵」と認識した大人を殴り、教師は自分の生徒に頬を張られて呆然とした。
父も母も、叱らなかった。祖父はまた抱きしめてくれた――――また転校。
次の学校では秘密は厳守されたが、キリノは頑なな少女になっていた。
ある日。家に帰ると祖父が珍しく笑っていた。
痩せぎすのちょっと怖い風貌に見える老人が相手だった。
「ああ、君がキリノちゃんか」
だが笑うと優しい笑顔で、キリノは少し心を許した。何しろ祖父が笑みを浮かべる人なのだから大丈夫だろうというのもある。
「あんたの爺さんとは今日知り合った、これからもよろしくな、あと……あっちに俺の孫がいる、よろしく頼まぁ」
伝法な口調でそういうと、老人は呵々大笑した。
ひょいと首を巡らせると、隣の部屋で所在なげに少年がひとり、たたずんでいる。
「や、やあ」
にっこりと少年は微笑んだ。脅えているのではなく、戸惑っているのが気配で分かる。
「…………」
暫くじっと少年を見つめ、
「私のお祖父ちゃんはマフィアよ」
とキリノは言った。
「知ってる。お祖父ちゃんの友達でしょ?」
と少年は言い、手を伸ばした。
「よろしくね」
キリノは少し驚いたが、それが顔に出たかどうかは判らない。
そして、おずおずと、手を握りしめた。
少年の手は、柔らかかった。
二年後、彼はまたもや正体が周囲に判明した少女が、それまで励んでいた剣道の大会に出られなくなったとき、憤慨して職員室に怒鳴り込むのだが、そんなことが想像できないぐらい、優しい感触だった。

だから、キリノはその日のことを忘れない。

 

「鬼神キリノ御年七歳」終