リラム~密偵の無輪者~発売記念短篇「北方の訪問者」その6

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「そうか、今日はめでたい日だ、この中にある物全部お前にくれてやっても良いぞ」
そういって、珍しくレイロウは高位者の年相応の子供らしく反っくり返って、自分の滑稽さにまた笑った。
そして火酒をまたひと口。
「今日は本当にめでたい日なんだ。僕はようやく、生涯の伴侶を見つけた」
本当に嬉しそうに、無邪気に、少年は華やいだ笑みを見せた。
この場にまっとうな人間がいれば、間違いなく顔を赤らめてしまうほどに、それは美しい笑顔。
普段は氷のような能面なのに、酒精の力と己のうちからあふれ出てくる歓喜の泉が相まって、彼は年相応の子供の様相を呈していた。
「北方辺境の魔女、ってしっているか?」
ふるふると、「なにか」は首を横に振った。
「この北方辺境を納めている女王だ。背が高くって、美しくて、強い。もの凄く強い。今日、初めて本人を見たんだ……僕は、彼女と添い遂げる。夫婦になる!」
しばらく首を傾げ二頭身の「なにか」は「あいてはおいくつでしか?」
「まあ、戦古貴人族だから、僕より一〇〇歳は年上だと思う。でも多分、僕のほうが彼女より先に死ぬだろうね。ヒト族と古貴人族はそういう落差があるし。僕はサムライだから、そこで戦場で先に死ぬかもしれない。相手だって先に死ぬかも」
一瞬そこでレイロウは黙り込んだが、すぐに頭を振った。
「でも、今回そういう悲観的な考えは浮かばないんだ。だから昨日からずっと計算球に僕らの数字を入れてどうなるか計算させているんだけど、計算球は一週間後以上の計上利益以外は予測出来ないから、まあ無理だよね」
あははは、と笑い声をあげる。
いっぽう「なにか」は腕組みして首をひねり、「そいつはたいへんむずかしもんだいでしね」と立て札を掲げた。
「僕は、自分から欲しいと思える人が初めてできた! これまでいろんな人が僕に好意を寄せてくれたり、そうじゃなかったり、色々あって、どれも嬉しかったけど、自分から欲しいと思える相手ができるなんて思わなかった!」
楽しげに少年は笑った。
「素敵だ、とっても素敵だ。人に恋い焦がれるというのが、こんなに楽しいなんて!」
表情のないはずの「なにか」の顔が、あっけにとられたように少年を見つめる。
「素晴らしい、恋は計算球では測定できない! 今の僕なら、これまでもの何倍もの戦いを繰り広げても大丈夫だと思うんだ! きっと、どんなに間尺に合わない戦いでも勝ってみせる! そんな自信があるんだ。判るかい?」
すなおに「なにか」は「わからないでし」と立て札を掲げた。
「わからないだろうな、うん。僕も昨日まで判らなかった!」
あははは、と少年は高々と笑った。心の底からの笑い声。(続く)