リラム~密偵の無輪者~発売記念短篇「北方の訪問者」その5

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「だが今の世界は違う。全ては調律集が決めた査定に従って権威者たちも査定され、評価され、あたわぬ物は重臣部会によって立場を追われる。場合によっては圏に与えた損害を孫や曾孫の代まで支払い続けることもある……まあ悪くはないな。僕もそういう意味では結構『お高い』んだぞ?」
そう言って、レイロウは紐で首に提げた小さな金属の塊を取りだした。
球体状で、表面にみっしりと数字が浮き彫りになっていて、それが規則正しい動きで出たり引っ込んだりを繰り返している。
「僕の価値は……今の所交易金貨で9800万とんで3枚分だ。まあ当然と言えば当然だけどね。10歳の時から軍を指揮して、一度も負けたことがないから。とはいえ勝っても次の戦場、次の戦場で碌な報償も貰ってないから実感はないけどさ」
ふっと少年は寂しげな目をした。
人生に諦観を覚えつつある疲れた老人のような目。
「兄上はどうしてこんなことをするんだろうなあ……」
呟く彼の言葉を聞いているのか、いないのか「なにか」はちょこんと正座したまま、杯を口元に持っていった。
何処へ吸い込まれていくのか、するすると火酒が消えていく。
「お前、飲み食い出来るのか?」
こくん、と「なにか」は頷いた。
「そういえば、この毛布はお前か? あの椅子にかけた布も?」
同じく、こくん。
「そうか、ありがとう」
レイロウは歳の離れた弟にするように「なにか」の頭を撫でた。
「お前は優しいなあ」
そういって微笑む。さらに火酒を煽った。
「酒のアテがもう干し肉ぐらいしかないが、いいか?」
と訊くと、相手の返事も構わず、部屋の奥から合戦時に携行するための干し肉を数枚出してくる。
「山梅牛の首肉だ、岩塩が染みてて美味いぞ」
それを両手で持ってパクパクと口元に消し始めた「なにか」を見て、レイロウは微笑んだ。
「うまいか?」と訊ねるとまた頷いた。
「そうか、今日はめでたい日だ、この中にある物全部お前にくれてやっても良いぞ」
そういって、珍しくレイロウは高位者の年相応の子供らしく反っくり返って、自分の滑稽さにまた笑った。