リラム~密偵の無輪者~発売記念短篇「北方の訪問者」その2

瞬く間に酒精が少年の血管を駆け巡った。
椅子の上ではなく、毛足の長い敷物の上に直接腰を下ろし、普段は頭の高い位置にまとめた髪も解いて、少年は身体の中の熱と、周囲の暖かさの落差を楽しみながら手足を広げて横になった……普段の馬上においても地上においても、すっと背を伸ばし、男とも女ともつかぬ美貌を引き締めた、凛々しい姿しか知らぬ物は目を疑うほどの自堕落ぶりと言える。
「ああ、いいなあ……」
そう言って少年は寝転んだまま、娼館の酔っ払いがやるように瓶から直接火酒を飲んだ。
塩味を足した野菜の漬け物は、懐かしいヒウモトの匂いも相まって、辛い酒を甘くしてくれる。
いくらでもツルツルと喉の中に流れ込んだ。
「幸せだ…………うん、こういうのを幸せ、っていうんだろうな」
満面の無邪気な笑みを浮かべてレイロウは呟いた。
「幸せが、自分の中から出てくるなんて、思ったことも無かった」
それから暫く、レイロウは床に転がったまま、楽しげに鼻歌など歌いながら目を閉じ……いつの間にか寝入っていた。
どれくらい寝ていたのか、目を醒ますといつの間にか身体に毛布が掛けられ、目の前には水の入った杯と水差しが置かれていた。
「…………だれが、来たんだ?」
暖炉を見てみると、明らかに薪が足され、普段書き物に使っている椅子の背もたれに、濡れた汗拭布がかけられている…………確かにこうしておかないと冬場には喉を痛める。
思わず入り口を見るが、閂は掛かっていた。
窓は何処も開いていない。
火の燃えさかる暖炉から侵入は無理だろう。
「?」
首を捻りながらレイロウは、それでも腰に差していた短いカタナ…………ワキザシを抜いて目を半分閉じるようにして気配を探った。
暫くすると、何かが動いている気配が感じられる。
レイロウは、ワキザシを手にしたまま、ゆっくりと立ち上がった。
すでに酒精は抜けている…………と思ったが、まだ揺れていた。
奥の部屋から気配がしていた。ヒウモトから来る各種の書類、書簡、そしてレイロウが暇つぶしに持って来た書物が収めてある部屋だ。(続く)