リラム~密偵の無輪者~発売記念短篇「北方辺境の訪問者」その1

201607-02

その日の朝、ついにレイロウ・トクゼは生まれて初めて、己の欲しいものを人生に見いだした。
まだ13歳の少年は、これまで文字通り何かを「恋い焦がれて求める」ことがない人生だった。
だから戦で勝ち続けて「幼き名将」と謳われることも、それを兄である次期将位主が疎ましいと考え、全土平定を目の前にしたヒウモトから、海を越えたはるかな北の大地、北方辺境に飛ばされ、蛮族と呼ばれる連中を相手にしろと言われても「そういうものだろう」としか思わなかった。
それが、この北方辺境で生まれて初めて「欲しい」と思うものを見た。
それが嬉しくて、彼は日が落ちると同時に滅多に飲まない酒を口にすることにした………ヒウモトにいた最後の年、12歳で成人の儀式を終えているので酒を飲むことは許されている。
北の大地は常に凍るような寒さだ。夏はほんの数週間しかなく、雪が解ける次期が春であり、地面が乾ききった数日を秋と呼び、あとは全て冬になる。
だから酒もはるか南方のロキオルスの火酒と呼ばれる強いものだ。
飲み慣れないものが、強い酒を飲めば酩酊となるのも早い。
そして一軍の将として、レイロウはみっともない姿を部下に見せるわけにも行かなかった。
だから今日一日は「報告書を書くから誰も来るな」と命じ、1年がかりでようやく完成した軍の指揮官用の個人宿舎に鍵をかけてから酒の封を切った。
それぐらい嬉しい気分だった。
すでに彼には忠臣が数名いたが、彼らに話すのは明日にしたかった。
今日はこの気分をずっと自分の中で味わっていたい。
12年の間、浮かれた気分になったことなんてほぼ無いのだから、たまにはいいだろう、と。
そしてレイロウはかねてから用意してあったヒウモトの野菜を、独特の半固形化した漬け汁の中につけたものを取りだし、ほどよく水分と塩味と、独特のうまみが染みこんだそれをポリポリと囓りながら火酒を煽った。
胃の中に熱い塊が落ちていく。(続く)