そういえば亡くなられてもう7年以上なんですね

森繁久彌、というともう今の20代の方は知らないかたのほうが多いでしょうね。
「もののけ姫」で暴走する山の神を演じた人です…………といってももうこれも二十年前以上ですが。
日本の芸能史による位置づけで言えば、第二次大戦後最大の喜劇役者(コメディアン)で、元祖マルチタレントと言うべきでしょうか。
舞台俳優でコメディも達者で、趣味人で、絵描きで、日本初のカラーアニメにおける「声優」で、エッセイストで、トーク番組を持っていた人で、何よりも「お笑いから入って徐々にシリアスな芝居の役者にシフトしていって、でも時折コメディの芝居も出来る人になる」という出世パターンを最初に行った人でも有ります。
「寅さん」こと渥美清が生涯の目標として掲げ、タモリもまた物真似のレパートリーに森繁久彌を持って居るぐらい(しかもまだ若い頃に「三男三女婿一匹」という下町の個人病院を舞台に下ドラマで共演、嫌味でセコい事務長役だったのが、最終回では私財をなげうって森繁久彌の病院を救い、その理由が…………という儲け役までしている縁があります)。

で、長いことその自伝はベストセラーだったのですが近年めっきり増刷がなく、読もうとしても高いプレミアが付いてたりしたんですが最近、Kindleになりまして。

さっそく購入してみました。

断片的にはこれまであちこちで目にしてきたのですが、通しで読むのは初めてです。

のっけから第二次大戦末期の新京ウイグル自治区のあたり、ソ連参戦でいよいよどん尻になってきて、色々あってうっかり進行してきたソ連兵の数名を「出迎え」るハメになってしまった森繁久彌(当時20代末)がノテノテと、いつ殺気に満ちたソ連兵に「マンダリン」の愛称で知られるPPSH短機関銃で蜂の巣にされるかと怯えながら彼らを新京にあるNHKの建物に案内するところから始まるというのがまた上手い。

普通の芸能人の自伝では自分の生まれから克明に書いていくのが常ですが、あっさり自分の人生の中で一番の危機(そしてそれまでの自分と決別した新天地のこと)から始めるということはなかなか出来ません。

そして当時の新京や、戦争に負けた後の様々な悲劇と、その中で出てくる笑えない喜劇的風景に自分の新京における生活を活写しながら……という。

時代の趨勢もあって、今読むと「なんでこう書くのか?」と思う部分もありますが、それは当時の歴史資料と照らし会わせるとよく分かると思います。

文体も歯切れ良く、朗読に力を注いでいた人らしいテンポなので、是非興味が出たらご一読を。