年末と言えば(昭和生まれ限定)

昭和の30年代から50年代生まれなら判っていただけるかも知れませんが、年末には「定番映画」というものがありました。

特撮関係で言えば「他の特別番組の枠」を調整するためにむちゃくちゃな時間でカットされたゴジラ映画、そして「超大作の名作映画」でした。

代表的な物として私らが小学生の頃に定番だったのが「アラビアのロレンス」と「大脱走」と「タワーリングインフェルノ」。

前者はまごうことなきD・リーン監督の歴史大作映画、後者2本はまたそれに「オールスターキャスト」が付く豪華大作で、コタツにあたりながら、あるいは親戚縁者が集まる縁戚の中ぽけっと見ていたものです。

「大脱走」と「アラビアのロレンス」「タワーリングインフェルノ」は長い上映時間もあって2週、あるいは2日にわたる「前後編」放送で、また声優さんも当時の俳優に合わせた固定枠、聞いているだけでも耳の正月、という感じでした。

「大脱走」はこれまで長くカット版の吹き替え版しかなく、フジで放送された「前後編」時の全長版が望まれてましたが、数年前にようやくその音源が見つかって、現在あるBlu-rayはこのバージョンです。

とはいえ、今の人たちから観ると、殆ど知らない俳優さんばかり(この中で未だに存命なのは今はNCISのダッキー、当時はイリヤ・クリヤキンとして有名だったデヴィッド・マッカラムぐらいでしょう)そして、捕虜収容所の中ですから当然ですが、見事なまでに女っ気のない映画でもあります。

ですがS・マックイーンがひとり二役で演じたオートバイチェイスの場面ばかりではなく、そこに至るまでがまた面白いのです。

まるで水滸伝のように、各収容所から集められてきた「脱走の職人」たちが力を合わせて史上類を見ない大量脱走を行う、というソリッド極まりないお話だからこそ、各キャラクターたちの書き込みが出来るという、無駄のない作品で、長編を書くにあたって非常に参考になります。

実はトンネルが怖いトンネル掘りの名人、視力を失っていく生真面目でバードウォッチングが趣味の偽造書類の達人と、口八丁手八丁でどんな品物でも手に入れる調子のいい物資調達の達人の友情、冷静沈着だが冷徹になりきれないリーダーたち、そして名前も出てこない脇役たち。
見事なのはひとりも「マヌケ」に見えない事。「お人好し」は居ても物語の都合に合わせた間に合わせの人物はいない、ということでしょうか。
収容所の所長は空軍の人間なので「脱走兵なんか殺してしまえ」とうそぶくSSに対して「彼らは空軍の管轄だ!口出しをしないでいただこう!」と激怒し、つとめて紳士的に接してくるし、下っ端のドイツ人の兵士でさえ、元はボーイスカウトで、21個目の記章がもらえる前にヒトラーがボーイスカウトを廃止してヒトラーユーゲントに編入された、と暗い顔をし、ふとしたことを不審に思って脱走トンネルのひとつを見つけたりもするわけで。

脱走したあとの緊迫感溢れる展開も素晴らしいです。
中でも「初歩的だぞ」と指摘されたことで…………というあたりの皮肉や、それぞれの脱走者の結末があって、ラスト、冒頭と同様に独房に放り込まれ、不敵に笑いながら壁にボールを投げ始めるS・マックィーンはひとりでこの映画をかっさらう格好良さでした。

個人的に好きなのは密造酒を作ってアメリカ独立記念日を祝う場面。
密造酒のヒドイ酒でも喜ぶぐらい兵隊が酒に飢えてるコトだけではなく、それぞれのキャラクターらしい反応や会話、そしてこの場面が実は起承転結の「転」に繋がっていくところとか、まあ、凄いというしかないです。

そしてイギリス軍の「地獄耳(インテリジェンス)」と呼ばれる大尉が後にイギリスのテレビドラマ「特捜班CI5」で鬼のコーレイ部長を演じるゴードン・ジャクソンというのは今から振り返ると不思議な因縁ですね。

アイルランド人らしく前出のヒドイ密造酒でも「いや以外といけますよこれ」と答えて他の首脳陣を呆れさせていたのも楽しい。

そして「強くてタフで無表情」イメージのC・ブロンソンが珍しく「実は弱い男」を演じております。

今の「ワンカット7秒」の映画に慣れた人には退屈に見えるかも知れませんが、酒のツマミのようにちょいちょいと観ていくと味わいがだんだん判ってくる作品だと思いますよ。